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「バスチアン本当にありがとう!」
「ご期待に添えられましたかな?」
「期待の数倍!」
「ほっほっそれは良うございました。とはいえ、私はどこのフリルを取り外すかを指示しただけ。実際に動いたのはメイド頭のマーサでございます」
「マーサさん…」
「坊ちゃま」
メイド長の名前を呼ぶとバスチアンが少し咎めるような口調となる。そこではじめの頃に使用人に対して『さん』などを付けないよう言われたことを思い出す。年上に対してその対応に少し違和感を感じるが、貴族社会とはそういうものなのだろうかと無理矢理納得したのだ。ちなみに記憶の中のユエルは、まず使用人と関わらないようにしていたので名前を呼ぶこともなかったのでどう思っていたのかはわからない。
「こんなに素敵に直してくれたマーサにお礼を言いたいな。出発する前に会えるかな?」
「どうでしょうな。流石に夜通しの作業となったようですので、今日は休むよう伝えておりますので……」
「そっか……じゃあ今度会えた時にお礼を言うよ。バスチアンもありがとう。こんなに素敵になったのはマーサと、バスチアンがどこのフリルを取るか考えてくれたからだもんね」
「勿体ないお言葉でございます」
そう言いながらバスチアンは嬉しそうに、好々爺とした表情で話す。きっと今までバスチアンとしか関わってきていなかったのが、他の人にも目を向けるようになったのが嬉しいのだろう。
(何か形に残るものでお礼したいな)
「さぁ坊ちゃま、時間が無くなりますぞ。後は髪型を整えて貰わなければ」
「うん、そうだね」
そう話すと、今までどこか後ろめたそうに、しかし微笑ましいものを見るように控えていた侍女が近づいてくる。
「ではあちらの鏡の前に移動をお願いできますか?」
「うん。お願いね」
「っ!精一杯努めさせていただきます」
今まで直接手を出していたわけではないが、傍観、または陰口を言っていた相手にどう接していいのかわからないのだろうと予想する。悲しいし寂しいと言った印象は持っているが、以前のユエルの事は凄く客観的に感じてしまう部分がある。それはユエルと優月が混じり合って、再スタートするということなのだろうかと考えたりもするが、とにかく今は新しい関係を築いていきたい。
そんな思いもあって笑顔でお願いしてみると、驚いたあとやる気に満ちた顔をしてして返事をする。きっとユエルがいい顔をしないと思っていたのだろう。
「えっと、君の名前は?」
「あ、は、はい!私はリーナと申します」
「そっか。リーナ、よろしくね」
「はい……はい、精一杯仕えさせていただきますっ!」
先程と同じようでいてわずかに違う。職務を全うするという言葉から、ユエルに味方してくれる、協力してくれるというものに変化した。元々申し訳なく思っていたのかなんて知らないが、これから良い関係を築けるのであればなんでも良い。
(わからないことが多いけど、まだ子どもなんだしこれから友達も作っていけば良いや)
今日のパーティーで同年代は多く集まるだろう。そこで友達を作ってみようか、なんて些か憂鬱だったパーティーが少し楽しみになった。
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