27/86
前へ
/86ページ
次へ
「ん~~、美味しい」 そう割り切ってからは、近くのテーブルにある軽食やデザートを楽しんでいる。流石王宮のシェフが作ったものと言えばいいのだろうか。自分の家のシェフが作ったデザートがかなり美味しかったので、それ以上なんてなかなか出会えないだろうと思っていたのだが、食感や風味、見た目も超一流の物ばかりであった。そんな食べ物に舌鼓を打っていたら、早々に視線のことなど明後日の方向にすっ飛んでいったのだが、突然声が高々と上がる。 「王妃殿下、並びに第一王子殿下のおなーりー」 その声に、慌てて手に持っていたお皿を机に置き、周囲と同じようにボウアンドスクレープで挨拶をする。声がかかるまでその姿勢をキープしなければいけない、顔を上げてはいけない、と習ったことを頭の中で反芻しながら姿勢を保つ。 「皆さん、顔を上げてください。……本日は王子の誕生日パーティーのために集まっていただき、感謝しますわ。ささやかながら、お料理など楽しんでいってくださいな」 「今日は私のために集まってくれてありがとう。楽しいひと時を皆さんと過ごしたいと思っています」 言葉通りに顔を上げると、意外と遠くに王妃殿下と第一王子殿下が入場しており、顔ははっきりとわからない。唯一分かるのは髪色くらいのもので、王妃殿下は赤、第一王子殿下は金髪だった。 てっきりうちは公爵家なので、順番が自由だといっても早くに挨拶ができるよう、入場される近くに案内されているものだと思っていたが、完全な登城順に案内されていたのであろう席に少し驚く。 (漫画とかで少し見た派閥とかないのかな?それとも単純にいろんな人と友達になれるように?) この世界が身分重視なのか、能力重視なのかもわからないため何とも言えないが、少なくとも貴族社会なのだから身分は尊ばれるのだろう。 殿下方は入場した側の人たちから声をかけて言っているようで、かなりの人数がいる中、ここにたどり着くまで時間がかかるだろう。もうかなり料理を満喫してしまったので、少し手持ち無沙汰になってしまう。 「………父上、かなり時間がかかりそうなので、少しお庭を拝見してきてもいいでしょうか?」 「うーむ。少しの間であればいいだろう。迷子にはなるなよ」 「……頑張ります」 来たことのない庭なのだから、規模もわからないし、絶対に迷子にならないなんて断言はできない。しかしこんな時に迷子になって迷惑をかけるわけにはいかないので、道順をしっかりと覚えようと決意し、庭の奥へ向かって歩き出す。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

698人が本棚に入れています
本棚に追加