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「うわぁーー素敵な庭だ」 一歩生垣の中へ足を踏み入れていくと、そこには色とりどりの花が見事に整えられており、目を楽しませる。流石王宮というのか、なかなかに広そうだが途中で開けた場所に出たので今回はここまでで、少し休憩してからすぐに戻ろうと、立派に育っている気の根本に軽く腰掛ける。 今日は晴天。それも雲一つないほどの晴れやかさで、湿度もあまり高くない。季節は春から夏への変わり目で、穏やかな日がこのところ続いている。日本ではそろそろ梅雨の時期とだなと、ゆっくりと混ざって行っている意識で、自然とそう思う。今のところは優月の記憶と、ユエルの記憶はどちらもすんなりと思い出せるようになってきており、どちらも自分が体験したことと認識している。ただ少し第三者目線と言うか、客観的に見ているような感じはあるので、優月の記憶が戻ってから人生が再スタートしたような気分である。 どちらも自分、優劣などつくわけでもなく、比較的自然と馴染んでいっているようで、きっとこちらの価値観とは少しずれてしまっているとは思うが、今のところ支障はないので気にしない。今のユエルはただ魔法や剣術に興味があって、歌が好きなただの7歳の子供だ。 「ふふふ~~~ん、ふんふんふ、ふん~~~♪」 早く戻らないといけないと思いながらも、このいい天気に素敵な庭にと見ていると、ついつい鼻歌が漏れる。美味しい料理を食べて、素敵な庭を見て、これでパーティーなんてなかったら、今日は最高の一日なのにと思いながらもうしばらく庭を見ている。 「素敵なメロディだね」 「っ!」 曲に区切りがついた時、急に声をかけられたので、驚いて体が少し飛び跳ねた気がする。ゆっくりと声がした方を振り向いてみると、ユエルが来た方と同じところから歩いてきている少年を見つける。 「君も、パーティーの参加者でしょ?こんなところでゆっくりしていていいの?」 「あー、えっと、挨拶までかなり時間がかかりそうだったから、庭の散策にこさせてもらったんだ。……君も、っていうことは、君もパーティーの参加者でしょ?自分もこっちに来てるのに、そんなこと言うんだ」 自分のことを棚に上げて話してくるので、少しおかしくてふふふっと笑いが漏れてしまう。 「ふふっそうだね。じゃあ私たちは似た者同士なのかもしれないね。隣に座っても?」 「そうかもしれないね。どうぞ?」 そう言いながら少年が隣に腰掛けてくる。改めて顔を見てみると、金髪碧眼の優月のイメージにあるザ・外国人といったような色合い。顔は幼いながらもかなり整っていて、今は少年特有の少し丸みを帯びた輪郭をしているが、将来はかなりのイケメンになるだろう。 「私の顔に何かついている?」 「あぁ、ごめん……家族や使用人以外の人とこうして話すの初めてだから。それに、今でこれだけ顔が整ってたら、将来は絶対格好良くなるんだろうなぁって……」 「ふふっありがとう」 「あ、そうだ、自己紹介がまだだったね。僕は「あぁ、待って」?」 「二人してこんなところで油を売っているからね、誰かにバレてもお互いにお叱りが来ないように、愛称を名乗るのはどうだろう」 「愛称……」 「うん。私のことはノアと呼んで」 突然の提案に少し戸惑う。ユエルという名前はかなり短いし、家族もそのまま呼んでいる。でも確かに自分が戻るのが遅れて叱られるのはしょうがないが、この少年まで巻き込んでしまうのは気が引ける。 「じゃあ………僕のことはユエって呼んで」 なんの捻りもなく、ただ初めの二文字で呼ぶというものだが、ネーミングセンスがないことは優月で証明されているのでしょうがない。エルだと何だか女の子っぽいので却下だ。 「ユエだね。わかった。よろしく、ユエ」 「こちらこそよろしく、ノア」 予想とは違う出会い方だが、どうやら友達第一号ができたようだ。
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