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起きたのが昼食の時間を少し過ぎた頃だったようで、2日も寝ていたらしいユエルに用意された食事はトロトロに煮たパン粥と温かいポタージュスープだった。そんなに寝ていた感じはしなかったのだが、食べ始めるとかなり空腹だったことを自覚した。 (空きっ腹に染み渡る~) ユエルがかなり我が儘放題していたという自覚はできたが、教育はしっかりとされており、食事マナーはしっかりと体が覚えていた。自我はかなり優月の占める範囲が大きいが、これなら慣れるまで大きな問題は起きないだろう。 温かいものがお腹に溜まるとまた急激に眠気が襲ってきた。前世を思い出したおかげで痛んだ頭もあって、その眠気に素直に従うことにする。 次に目覚めたのはもうすぐ夕食の時間になるからとバスチアンが起こしに来た。何でも目覚めたのであれば夕食の席に参加するようにとユエルの父親に命令されたからだそうな。当主の命令は聞かないといけないとすぐさま準備に取り掛かる。幸いあの後もしっかりと眠れたおかげか、頭の痛みも混乱具合も大分マシになっている。 バスチアンに先導されながら食堂へ向かう。一応道は分かるのだが記憶障害であるユエルにバスチアンが気を使っているのだろう。見慣れたはずの景色を物珍しく感じながら歩き、そんなことを考えているとあっという間に到着した。 扉を開けられて中に入ると三人の男が座っているのが見えた。 「遅れてしまい申し訳ありません」 そう頭を下げ、空いている自分の席に向かう。 「お前が謝るなんて珍しい」 そう少し厭味ったらしく口にしたのは赤髪に青緑の瞳の10歳前後の男。混乱はしなくなったが、ラグがあるような感覚で、顔を見てもパッと名前やどのような人なのか出てこない。表情に出さないようにしながら誰だったかを思い出そうとしているともう一人の男が話し出す。 「そんなことはいいから早く座れ」 こちらも赤髪だが、初めに話しかけてきた男よりかはやや淡い色をしており、瞳は翡翠色。10代前半だろうが、やけに大人びたというか、冷めた表情が印象的だ。 必死に記憶を遡りながら席に座ると次は30前後、寧ろ20代?の銀髪に碧瞳の男に話しかけられる。 「医師から話は聞いている。状態は」 「身体的には特に問題はありません。記憶障害との診断通り、顔を見てすぐに誰だったのかは答えることができませんが、日常生活では大きな問題が起こるほどではないかと」 状況からして父親なのだろう人物にそう端的に問われ、誰なのか考えていたユエルは深く考えずに返答していた。 「…今まであんな話し方してなかっただろ。記憶障害だなんて気を引きたくて今度はどんな嘘をつくのかと思ってたんだが?」 「ただ今までの猫かぶりをやめただけかもしれませんよ」 兄弟と思われる二人がこちらを横目で見ながらひそひそと話している。と言っても丸聞こえなわけだが貴族当主の話は遮ってはいけないということを理解しての行動なのだろう。 (10歳そこそこにしては理性的なんだな) 自分のことは棚上げにした状態でそんなことを思う。なんだか今までの出来事は他人事のように感じてしまっている今、この人たちが家族だという実感もない。まぁ記憶をさらっている中であまり関わりがなかったようなのでもともとなのかもしれないが。
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