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「体調に問題がないのであれば、1週間後に予定されている第一王子殿下の誕生ガーデンパーティーには出席するように。マナーやガーデンパーティーに必要な知識は講師に再度教えるように伝えておく。明日から再開する」 「わかりました」 倒れて意識がなかった息子にかける言葉なのかと少々疑問に思う。元々愛情をほとんど感じなかったため、自分を見てもらいたいと我が儘を言い出したのだろうと、今までのユエルの行動を客観的に考察する。寂しくてしていたことが、いつの間にかそれが当たり前の行動になってしまったのだ。しかし今は前世のことを思い出したおかげで、平凡な一般家庭でも、しっかりと愛情を持って育てられたこと、幸せだったことを知っている。世界は家の中だけではなく、もっと外に広がっていることを知っている。だからもうあんな行動はとらなくてもいいとわかる。 (しかしすぐに王子様の誕生日パーティーかぁ。ここでの常識ほとんどすっ飛んでるけど1週間で大丈夫かな?) 心配ではあるけれど、実際に授業を受けてみなければわからないので、一先ずは料理を食べ進める。幸い食事マナーは体に染みついているのか大きな粗相などなく食べることが出来ている。 それにしても誰も話さない食卓にややげんなりとしてしまう。ペチャクチャと何でもかんでも話せとは思わないが、食器のこすれる音すらないこの空間で、何も話さないままだと気まずくてしょうがない。明るい雰囲気で食べたらこの食事ももっと美味しく感じるだろうなと思いながらも、家族とのやり取りは思い出せていないユエルが提供できる話題などあるはずもない。 ちなみに父親と長男、次男の名前は思い出せた。 父親がウィリアム、長男がハムザで6歳上の13歳、次男がエイデンで4歳上の11歳。母親はユエルを産んで、産後の肥立ちが悪く、ほどなくして亡くなった。ユエルの髪や瞳は父親譲りだが、顔は母親そっくりらしい。兄たちは髪や瞳は母親譲りで、顔は父親似と見事に分かれている。 わずかに思い出せたやり取りでは、長男はそうでもないが、次男は母親が亡くなったのはユエルのせいだと責めていた。今だからわかるが、産むと決めたのは両親だし、お腹の中にいた自分にどうにかできるわけがない。産まれてから体調を崩したとしても赤子だった自分にはどうしようもない。幼くして母親を亡くすことは悲しいが、それを言ったらユエルは母親と過ごした時間もなく、顔も全く知らない。まぁ初めからいないより、大切な人を突然失う方が辛いのかもしれないが、幼い弟に言われても困るというものだ。 (とりあえずは、明日から頑張らないといけない、かな)
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