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ようやく昼食にありつけて一息ついた頃、チラリとノアの顔を盗み見る。 (やっぱり顔色良くないなぁ……) 一緒に過ごすことが多くなったが、ノアは大抵顔色が悪い。何でも無いように装っているが初めて会った時と同じような顔色をしていることが大半なので間違ってはいないだろう。 「………ノア、夜眠れてる?」 「え?」 「いや、いつも顔色が良くないから。出会った時もそうだったし、やっぱり夜眠れてないのかなって」 「……ユエに隠し事は出来ないな」 苦笑しながらそう言うノアの表情は、やはり何処か無理をしているようだった。前世でそんな顔をしたカップルの破局を何度か見ていたからか、深く考えもせずに言葉が口をついて出る。 「………僕を好きだっていうなら、なるべく隠し事は、しないで欲しい。悩んでることとか…王子だし話せないこととかもあると思うから、ほんと、なるべくでいいから。なんなら愚痴とか、しんどいって一言だけでもいいから、話して欲しい、かな」 話しながら自分がそんなことを言える立場ではなかったことを思い出し、段々尻すぼみになってしまった。前世の記憶があること、ここがどうやら乙女ゲームと言われる物語とそっくりなこと…ノアが将来主人公と呼ばれる女の子を好きになるかもしれないこと。確証のないことだからと思っていたが、前世の記憶があることくらいは話しても良かったのかもしれないと、今更ながらに思う。そんなことをグルグルと考えていたら、いつの間にかノアがすぐ近くまで来ていて、手を取られベンチに腰掛けるよう連れて行かれる。 「……ノア?」 「早速だけど、その言葉に甘えようかと思ってね。………ここのところあまりよく眠れていないんだ。また、ユエの歌を聞かせてくれる?」 「もちろん!あ、でも、魔法……」 早速頼られたことに即答してしまうが、歌を歌うということは魔法が発動してしまう可能性がある。鼻歌であれば影響は出ている様子はないので安心だが、歌うとなればどうかわからない。魔法を学ぶようになって、歌の魔法は影響力が強いことを知ったので、本当に歌っていいのか不安になる。 「大丈夫だよ。最近魔力操作も教えてもらっているし、それにユエは悪いことを考えながらは歌わないでしょう?」 「それは、そう、だけど………」 「何かあっても俺が責任を取るよ」 「いや、何かあったら自分で何とかするからいいよ。って、何も起こさないよ!……たぶん。………うん、悩んでてもしょうがないし、ノアの疲れは取れないもんね!それに、5分10分の昼寝は一番体にいいって言うし!」 「クスクス。そうなの?じゃあユエにはゆっくり眠れそうな曲を歌ってもらわないとね」 先ほどまで悩んでいた素振りだったのに、急に開き直ってノアを寝かしつけるために歌うと張り切っているのだから、おかしく感じたのだろう。優しく笑いそう言うと、ユエの太ももに頭をのせて膝枕の姿勢を取ってしまう。そんな行動に少し驚きながらも嫌な気持ちは全くない。 (誰かの為に歌う曲を考えるって、やっぱり楽しいな) できるだけゆったりしたテンポの曲を歌いながらノアのサラサラとした髪を撫でる。爽やかなそよ風が吹くガゼボでそんなことを思うのだった。 「ユエも、言える時が来たらでいいから、何でも相談してね」 目が覚めたノアにそう言われて、本当に何もかも見透かされているのではないかと少し遠い目になってしまったのはほんの余談である。
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