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「社長、申し訳ございませんでした」
戻るなり、高澤の上司である経営企画部長の河本(こうもと)が謝罪にやって来た。
高澤は渋滞に巻き込まれた車を待っていて、まだしばらく戻ってこれないとのことだった。
「いや、問題ありませんよ。たまには電車移動もいいものだし、高澤にも遅くなるようなら直帰で構わないと伝えてください。今日は夕方に予定もありませんから」
「承知しました。あ、そうだ。もし小腹が空いているようでしたら、いただきもののロールケーキがあるのですが」
「へぇ、いただこうかな。飲み物は・・紅茶にしてもらえますか?」
「はい、用意してお持ちしますね」
河本が部屋から出て行った後、俺はジャケットを脱ぎネクタイを少しだけ緩めた。
去年、親父が65歳を迎えたのを機に会長となり、営業部門の常務執行役員だった俺が35歳で社長に就任した。
祖父が起こした専門商社を親父が総合商社に拡大し、伸び悩んでいた母の実家の専門商社と合併させた。
親父の大胆な戦略と母の弟である叔父の細やかな気配りで、いくつかの事業を新たに展開するまでになったのだ。
世間には政略結婚だと言われた両親だが、実は熱烈な恋愛結婚だった。
残念ながら、俺にはまだ一緒に頑張ってくれるような相手はいないものの、多くの社員が会社や俺を支えてくれている。
両親は『見た目は悪くないのに、誰かいい人いないのか?』なんてからかうことはあっても、特に結婚を急かすわけでもなく見守ってくれていた。
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