第一章

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何分そうしていただろうか。 俺の背後で、ガチャッとドアの開く音がする。 「服部さんですね。いま先生が来ますので」 看護師が、蛇口の水を止めながら俺に声をかけた。 「すみません、お待たせしました。えぇと、服部 玲生(れお)さんですね・・。医師の早坂(はやさか)です。火傷、痛みはありますか?」 そう言いながら処置室に入って来たのは。 「・・嘘だろ・・・・」 「えっ?」 「あ、いえ・・すみません。痛み・・は、ヒリヒリする感じで」 こんなことって、本当にあるのか? 俺の左手にそっと触れて診察している女性医師は、電車で俺を助けてくれた人によく似ている。 思わず顔をじっと見た。 ネームプレートを確認すると、『医師 早坂 蒼』と書いてある。 はやさか・・、名前は何と読むんだろうか。 「あの・・服部さん。そんなに見られると、何だかやりづらいんですけど」 「あ・・すみません。知ってる人に似てるなと思って・・つい」 俺の手に軟膏を塗りながら、その人はクスクスと笑っている。 あ・・れ? 俺に気づいていない? ということは・・他人のそら似か? 「あの・・先生、私に見覚えないですか?」 「え? ふふっ、ナンパですか?」 「いや、そんなんじゃなく、本当に・・」 「服部さんみたいなイケメン、会っていたら忘れないと思いますよ。はい、終わりです。明日の朝までは少し痛むかもしれませんが・・今夜は奥さまに薬を塗ってもらってくださいね」 え・・。奥さま?
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