第一章

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「先生・・・・薬を塗ってくれるような人がいない場合は、どうしたらいいですか?」 俺は、会社から車で10分ほどのマンションで一人暮らしだ。 会社でのケガだし、言えば高澤あたりが来てくれるだろうけど、それもどうかと考えた。 「あら・・。そしたら、今夜は患部を絶対に濡らさないようにして、明日の朝イチで来院できますか? 診察と処置を合わせても10分かからずに終わりますよ」 「・・そう・・ですね・・」 確か明日の朝は、営業部門の報告会があったはずだ。 15分ほど調整すればなんとかなりそうだが、その後の予定が調整可能か分からない。 「もしかして、お仕事の都合で朝の来院が難しいとか? うーん・・・・それなら、21時頃もう一度ここに来れますか?」 「えっ」 「いま16時過ぎなので、ひどくなるようだと5時間もあれば分かると思うし、その時に薬と包帯も変えちゃいましょう」 「でもご迷惑じゃ・・。帰りも遅くなりますし」 俺はまだ仕事も残っているし、21時にここに戻ってくるのは容易いことだった。 それにもう少し、彼女と話をしたいと考えていた。 本当に電車で会った女性ならば、お礼をちゃんと伝えたかったから。 「大丈夫ですよ。今日は元々、夕方から備品の入れ替えがあって立ち会う予定だったんです。ちょうど終わる頃だし、服部さんが良ければ」 「じゃあ・・そうさせてもらいます。ありがとうございます」 「お大事に。また後ほど」 やわらかく微笑んで、彼女は診察室に戻っていった。
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