418人が本棚に入れています
本棚に追加
溜まっていた決裁文書を全て片付けたところで、壁掛けの時計を見上げた。
20時40分。
まだ少し早いか・・。
その時、グゥーッと腹が鳴った。
ロールケーキを2切れほど食べたとはいえ、もう21時前だ。
『夕方から備品の入れ替えがあって立ち会う予定』
そう言っていた彼女も、まだ食事をしていないかもしれない。
何となく、仕事をしているスタッフを横目に食事をするイメージが持てなかったから。
「少しだけ、用意するか・・」
もし彼女に断られたとして、後で俺が食べればいいわけだし。
俺はオフィスのすぐ近くにあるメキシコ料理店に行き、トルティーヤに具材を乗せて包んだタコスを何種類かテイクアウトした。
彼女の口に合うだろうか・・。
気になりつつも、そのままクリニックに向かいドアをノックした。
「こんばんは、服部です」
『はーい』と声がして、私服姿の彼女が奥から出てくる。
ほら・・やっぱり。
そう・・だよな。
彼女は、電車で会った時と同じ服を着ていた。
俺は持ってきた軽食に、『お礼』という明確な理由がついたことが嬉しかった。
「こちらへどうぞー。その後、痛みは無いですか?」
処置室の一部にだけ灯りがついていて、俺はそこにある椅子に座った。
彼女はそーっと包帯とガーゼを取り、患部を診ている。
その時。
グゥーッと、俺の正面から音が聞こえた。
「やだっ・・すみません・・あぁもう、恥ずかしい」
真っ赤な顔で、俯きながら処置を続ける彼女を可愛いと思った。
最初のコメントを投稿しよう!