第一章

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溜まっていた決裁文書を全て片付けたところで、壁掛けの時計を見上げた。 20時40分。 まだ少し早いか・・。 その時、グゥーッと腹が鳴った。 ロールケーキを2切れほど食べたとはいえ、もう21時前だ。 『夕方から備品の入れ替えがあって立ち会う予定』 そう言っていた彼女も、まだ食事をしていないかもしれない。 何となく、仕事をしているスタッフを横目に食事をするイメージが持てなかったから。 「少しだけ、用意するか・・」 もし彼女に断られたとして、後で俺が食べればいいわけだし。 俺はオフィスのすぐ近くにあるメキシコ料理店に行き、トルティーヤに具材を乗せて包んだタコスを何種類かテイクアウトした。 彼女の口に合うだろうか・・。 気になりつつも、そのままクリニックに向かいドアをノックした。 「こんばんは、服部です」 『はーい』と声がして、私服姿の彼女が奥から出てくる。 ほら・・やっぱり。 そう・・だよな。 彼女は、電車で会った時と同じ服を着ていた。 俺は持ってきた軽食に、『お礼』という明確な理由がついたことが嬉しかった。 「こちらへどうぞー。その後、痛みは無いですか?」 処置室の一部にだけ灯りがついていて、俺はそこにある椅子に座った。 彼女はそーっと包帯とガーゼを取り、患部を診ている。 その時。 グゥーッと、俺の正面から音が聞こえた。 「やだっ・・すみません・・あぁもう、恥ずかしい」 真っ赤な顔で、俯きながら処置を続ける彼女を可愛いと思った。
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