レジのやつ

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レジのやつ

いつも行くドラックストア。 最近新しい店員が増えたなぁ。 ここは、女性スタッフが多いから、 何となく男性スタッフが目立つ。 相も変わらずやきもち焼きの俺と、 それを知らない、愛想振りまくめぐ。 若い男ってだけでもいやなのに、 そのレジの男は、やたらと丁寧だ。 そっと手を添えるように釣銭を返してくる。 「電子マネーにしたら?」 「うーん」 まぁ、スマホ忘れて出かけることもあるし、 めぐには難しいかな、スマホ決済…。 でも、あの男。 おつり返す時、めぐの手、触ってないか? 「手」 「ん?」 「手、触られてない?」 そう聞くと、ちょっと自分の手を見て、 「うーん多分、触ってないと思うよ」 にっこり返してくる。 めぐが釣銭を受け取るたびにじっと見てしまう。 ある日、 「37円のお返しです」 という男の声の後。 「あ、あ、ごめんなさい」 とめぐが言った。 「!!」 触った?触ったよね? めぐの性格からして、 “手が触れちゃってごめんなさい” って感じで謝ったんだよね? お互いに笑いあってるのが、腹立たしい。 でも、その場で騒ぐのも大人げない。 ぐっと我慢する。 「行こ」 そう言って、買い物袋をめぐからとって、 触れ合ったであろう手を俺が握る。 ちょっと振り返って、軽く頭を下げるめぐ。 彼もこっちを見ていたのがわかる。 何? 何のアイコンタクト? イラっとして、ぎゅっと手に力を籠める。 「…っ!」 めぐが顔をゆがめる。 悪いとわかっても、めぐを許せない。 家に帰って、乱暴に洗面所に連れていく。 「…ふ…と君?」 「手、洗って」 おびえたようなめぐに、 乱暴に指図する。 黙って、俺の言うとおりにする。 みるみる支配欲が沸き上がる。 こういうところ。 めぐが従順だから、 俺はどんどん悪い男になってしまう。 めぐを束縛して、閉じ込めて、ねじ伏せる。 でもそれを嫌がらない、めぐが悪いんだよ。 手を拭いためぐが、 俺を上目遣いで見上げる。 俺はその手を取って、 そのまま手の甲に口づける。 少しぴくっ!とした後、 官能的な表情を見せる。 そのまま唇を指に動かし、 触れられたであろう指先を口に含む。 「あっ…」 めぐからかわいい声が漏れる。 「何?こんなことされて、感じてるの?」 顔を真っ赤にする。 一本一本丁寧に咥えていく。 反対の手は、いつの間にか、 俺の服の裾を強くつかんでいる。 マジでヤバイ。 サイコパスな気持ちになってしまう。 「めぐ」 「…」 「好きだよ」 手の甲に唇を近づけたままささやく。 「…あ、わ…私も」 …ぷっ、何それ。 超棒読みなんですけど。 チュ。 おでこにキスして、 「お茶しよ」 そう言って洗面所を後にする。 金縛りが解けたように、 後ろから俺を追いかける気配がする。 あぁ、ダメだ。 めぐにはかなわないな。
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