橋元 準

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橋元 準

「あ…」 駐車場で車を停めたその先に、 知ってる男を見つける。 俺は中島 楓人(ふうと)。 年上の彼女がいる。 目の前に現れた男は、 俺の元ライバル。 名前は確か…。 橋元 橋元 準 だ。 彼も俺に気づいたようだ。 車のドアを閉めながら、 軽く会釈してきた。 橋元さんは、 俺の彼女 菊池 恵実(めぐみ)を好きだった。 いや、もしかしたら、今も好きかもしれない。 多分恵実も、彼を好きだったことがある。 でも、彼女が選んだのは俺だった。 内心、二人が両片思いに気づかなくて、 ほんとによかったと思っている。 「どうも、今日はおひとりですか?」 彼は人懐こい。 好きだった人の彼氏なんて、 話しかけたくないだろ、普通。 俺はあからまさにいやな顔をしてしまっているだろう。 「えぇ、まぁ」 いちおうそうかえす。 そう言えば、この前橋元さん(こいつ)、 女と一緒じゃなかったっけ? 「橋元さんは…、」 彼の車のほうを見ながら、 社交辞令的に聞いてみる。 「あぁ、実は…別れちゃいまして」 は? ちょっとあっけにとられる。 「というか、彼女と言えるかどうかも曖昧でしたし」 …はは、なるほどね。 キープしてた彼女にふられたってことか? 「やっぱり、忘れることできなくて…」 さっきまでの穏やかな、へらへらしたかんじを、 急に消し去って、強い視線で俺を見る。 …! え?まさかめぐのこと?! 「い、いや何言ってるんですか?」 思わずしどろもどろになってしまう。 「中島さんにこんなこと言うのは、 おかしいですけど、やっぱ、 半端な気持ちのままだと、彼女のこと傷付けてしまって…。」 はぁ…。 「橋元さん」 彼は俺をしっかり見ている。 「橋元さんは遅かったんですよ」 穏やかだけど、射抜くような視線。 「めぐが必要な時に、橋元さんは助けなかった、 それだけの話です。」 「わかってます。」 「それに、めぐは、 めぐは俺のことが好きなんです。」 俺は、めぐの笑顔を思い出す。 思わずにやけてしまう。 「あと、俺もめぐじゃないとダメなんで」 いえたことじゃない。 だって、めぐはそんなこと知らない。 俺が、そう思わせてる。 惚れてるのはめぐの方だって、 そう思わせてるから。 だからめぐは、 俺に好きになってほしくて、 俺のこと好きなのを毎日伝えたくて、 一生懸命になってる。 俺のほうが好きなのに、 こんなにめぐにべたぼれなのに、 めぐはそれを気付いていない。 「わかってます」 繰り返すようにそう言う橋元さん。 「わかってるけどもし、」 「…」 「もしもってことを、俺もあきらめません」 ドラックストアの前で、 見つめあう男二人。 はたからどう見えてるんだろうか? 「ピロン」 俺のスマホが鳴る。 めぐだ。 #どこにいる? その一文にもにやけてしまう。 「じゃ、俺はこれで」 彼に別れを告げる。 「余裕かましてると、俺…」 「万が一とか、もしもなんてねーよ」 彼の言葉を遮る。 「俺とめぐに、そんなことないから」 そう言って、後ろ手に手を振る。 さぁて、帰ったら、めぐを抱きしめよう。 てか、抱きしめたい。
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