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会議の日からはこれまで以上に様々な事があり、飛ぶように日々が過ぎていった。そして今日は、いよいよ新入生歓迎会当日だ。
あれからも生徒会の主な業務は俺1人でこなしていたが、流石に今日ばかりは他の役員も仕事をする気になったようだ。
なんと、つい1時間前にようやく眠りについた俺を朝早くから電話で生徒会室に呼び出し、新歓の進行表は何処だだの、何をするのか1から教えろだの…とにかく色々言ってきたのだ。
流石の俺も“お前らに常識はないのか”とキレてやりたかった。まぁ、そんなことするはずが無いのだが。
舞台の幕の内側で、そんな朝のいざこざを思い出しながら、小さく欠伸を零した。おかげでかなり寝不足だ。
幕の外を覗くと、新歓開始15分前にも関わらず、既に舞台の下には多くの生徒が集まっていた。皆一様に楽しそうで、今か今かと開始の合図を待っている。何日か徹夜して頑張ったかいがあった。
「まこ、と…ね、そく…?」
チラッと視線のみを背後へやると、何故かシュンと沈んだ様子の書記が立っていた。幻覚か、垂れた犬耳が視える気がする。
素直に答えてやる義理などもう無いに等しいが、だからといって無視するのもきまりが悪い。
気付かれないよう小さくため息をつき、彼らに向けていたいつもの俺を貼り付けから身体ごと振り返った。
「ん~、昨日は今日が楽しみでさぁ、遅くまで起きちゃってたんだよね~。いやぁ~、失敗失敗~」
「ごめ……あさ、起こした………ね、そく…おれた、せ…」
何が悪かったのか、書記は更にテンションを落とし、ますます申し訳なさそうに今代生徒会で一番デカい図体を小さくする。
あー、そんなつもりは無かったんだが…。
さてどうしたものかと、次にかける言葉を考えようとすると、新たに人がやって来た。というより、腰に思いっきり突撃してきた。地味に痛い。
「やっほーいッ!」
「いッいぇーい!」
言わずもがな、双子である。
何故この2人はこんな朝早くからアクセル全開なのか。
寝不足の頭に響くから切実にやめて欲しい。
俺と書記の腰辺りに1人ずつ飛びつき、引っ付き虫と化した双子が埋まってた顔を同時に上げて、じっとこちらを見上げてくる。
「「マコちゃんマコちゃん」」
「…ど~したの~?」
「あのね」
「えとね」
「「……やっぱ後から言うねー!!」」
モジモジとらしくない態度で顔を見合わせた双子は、諦めるかのようにそう言うと、沈んだ様子の書記に絡み始めた。
……一体何だったんだ。
どこか釈然としない思いを抱えたまま、俺から離れて戯れる双子と書記をなんとなしに眺める。
先程俺と話していた時の気まずい空気のようなものはそこになく、3人共満面の笑みを浮かべてひどく楽しそうだ。
「……俺、何してんだろ」
ぽつりと漏れ出た声は他の誰にも認知されること無く、ただ虚しく空気に溶けて消える。
どうしようもなく目の前に突き出てくる現実は、此処には俺なんかの居場所は無いと嘲笑っていた。
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