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あれから約1時間経った今、生徒会室はキーボードを叩く音と、ペンが紙の上をすべる音だけが響いていた。
時々、書類承認の為会長に印鑑を押して貰いに席を立ったり、受け渡しをしたりをする以外は誰も席から離れない。
多分、今日はもう終わるまでずっとこうだろう。
「ん~~…」
更に時間が経ち、強張ってしまった身体をほぐす為に、腕を上に思いっきり伸ばす。
ついでに室内の大時計をチラッと横目に見ると、もうすぐで20時になるところだった。
「副会長~」
「……何ですか?」
「もうすぐで8時だよぉ~」
言外に校舎があと少しで閉まるという事を伝える。
「あぁ…もうそんな時間ですか」
副会長は立ち上がると、パンパンっと手を軽く叩き俺達の注意を引き付けた。
「はい、あと少しで校舎が閉まります。なので本日はこのぐらいで終了にしましょう。切りのいいところまで済ませたら、早く寮に戻って下さい。生徒会室の戸締まりは会長、貴方がして下さいね」
「あぁ、分かった」
「「はーい」」
「お、けー…」
「分かったぁ~」
丁度切りが良かったので、データを保存してからパソコンの電源を落とした。
それからこっそりとUSBをカバンの中に滑り込ませ、寮に帰ってからも片付けられるようにする。
「じゃあ、僕らはもう帰るねー!」
「また明日ねー」
「「バイバーイ」」
元気に手を振りながら、双子が最初に出ていった。
「…おれ、も…かえ、る…さよ、な、ら…」
「あ、俺も一緒に帰る~!じゃあねぇ~、会長と副会長~」
その次に慶が帰ろうとしたので、俺も一緒に寮へ帰る事にした。まぁ、会長と最後まで2人きりになるのは気まずいだろうと思ったのもあるが。
薄暗く静まり返った廊下を慶と2人、並んで歩く。
この校舎は何時でも静かだが、今は特に静かだ。
隣の校舎から微かに聞こえてくるざわめきや、森に住む鳥の鳴き声すら無い。
ただ、コツコツと俺達の歩く音が虚しく響くのみ。
キャラ的にこのままではいけないだろうな。
何か、何か喋らなくては。
「…静かだねぇ~」
少し焦った末に出てきたのは、そんな言葉だった。
「ん…そ、だね…」
それで会話が終了した。
ヤバいヤバいヤバい。
落ち着け俺、普段のチャラ会計様になりきれ。
今日は既に(意図せずにだが)、いくつかボロを出してしまったんだ。
これ以上、疑われる様な失態を侵すな。
「もうすぐで春季休暇だけどぉ~、慶は何するのぉ~?」
「お、れ…?」
「そ、何するの~?」
「…家…か、える…」
「そっかぁ~」
家、か…。
そういえば、乳母と弟はどうしているのだろうか。
元気にしているといいけど。
まぁどうせもう俺は会えないし、契約があるから、きっとあの人達は大丈夫だよ、な………
「──、は?」
「ん~?」
「まこ、と…は?」
「俺かぁ~…俺はまぁ~、街にぃ買い物にでも行こうかなぁ~」
「そ、か…。ね、え…」
「あ、寮に着いたよぉ~」
慶は何か言いたそうにしてたが、俺はあえてそれを無視した。
多分、今年も家に帰らないのか、とでも言いたかったのだろうな。
俺は、俺の事を誰にも話すつもりは無い。
これまでも、勿論これから先も。
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