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寮の部屋に着いた途端、ひとつに結いてあった髪を雑にほどくと同時に、いつもの様に顔から表情を消す。パサリと、肩より少し下まで金色が広がった。
これで、生徒会役員チャラ会計の水無月真琴はこの世から一時的に居なくなった。
あー…やっぱり表情を四六時中作ってるのは疲れるな…。
そういや、副会長もよくやってられるよなー。あの人微笑み、ほぼ完璧だし。
アレ、生徒会の俺達以外誰も気付いてないんじゃないだろうか?もしかしたら、副会長の親衛隊は気づいてるかもだけど。
そんなどうでもいいことを考えながら、1人で住むには広すぎるリビングを通り過ぎる。
本当は今すぐにでもふかふかのソファーに座り込みたいが、そのまま眠ってしまう可能性が高いので、座るのは我慢する。明日も学校だから、このまま寝て制服がくしゃくしゃになってしまうという事態は何としても避けたい。
さっさと風呂に入ってくるか…
脱いだカーディガンと黒のスラックスをハンガーにかけ、これまただだっ広い脱衣所で茶色のカラコンを外す。
目の前の鏡を見ると、ルビーのように赤い右目とサファイアのような澄んだ碧い左目をもっている、中性的な顔立ちの男と視線があった。
ソイツはこの世の闇を全て抱えたような、自分だけがいっそう不幸なのだと言わんばかりの目をしていた。…そんなわけがあるはずないのに。だって俺は…僕は、シアワセなんだ。ねぇ、そうでしょう?
言い様のない嫌悪感や黒いモヤ、わけの分からないモノが次から次へと湧いてくる。俺はソイツから顔をそらすと、すぐにシャワーを浴びるために浴室に入った。
ジャー
熱いお湯を浴びると、汚れと一緒に胸に淀った黒いモヤまでもが流れる気がする。キレイになっていく気がする。
まぁどんなに流しても、完全にこのモヤがなくなる事は決して無いだろうがな。
俺自身が、この世から消えない限り。
「ハハッ」
自傷的な笑い声が漏れる。
どんなに死にたくとも死ねなかった証が、この身体の、普段は服に隠れて見えない場所そこら中に、傷跡として残っている。遺伝子上の父親に付けられたものや変態家庭教師に付けられたもの、中には自分でやったものもある。
だから夏でもカーディガンが手放せない。こんな醜い傷を誰かに見せるわけにもいかないからな。
あぁこんな俺を見たら、俺を慕っている親衛隊の子達はどう思うんだろうか。…十中八九、失望するだろうな。あの子達が慕っているのは、俺じゃない俺なのだから。
普通のお湯に混じって、金色のお湯が肩を滑っていった。
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