銀蝶という者

3/10
前へ
/129ページ
次へ
 傍から見ると、フードの者が圧倒的不利だろう。  あちらは複数人いるばかりでなく、皆ガタイがいい。  それに比べてフードの者は1人で、体付きが華奢だ。  男達もそう思ってるのだろう。襲いかかるその瞬間の顔は、余裕に満ちていた。  しかし、予想に反してその者は、男達の攻撃を最小限の動きで躱した。そして、今まさに頬を殴ろうと、男Aの伸ばされた拳を片手で受け止め、もう片方の手で腕を掴み、投げ飛ばした。  投げられた男Aはかなり吹っ飛び、建物の壁にぶつかった後、ぴくりとも動かない。恐らく気絶したのだろう。  その間、実に数秒程度。  仲間がやられた事実を把握した残りの男達は、僅かな間呆然としていた。が、すぐ我に返ったかと思うと、怒りに目を染め、勢いよく襲いかかる。  それを、フードの隙間から冷静に見る赤と碧の光があった。 …………  数分後、その場に立っている者はフードの者、ただ1人だった。  周りには気絶した男達が無様に転がっている。 「……弱っ…」  それだけを小さく呟いて、立ち去ろうと歩き出した…が。 「………ゴホッゴホッ…ハァ…」  背後で先程転がした奴らのうち1人が、ヨロヨロと立ち上がった。 「……ゴホッ…待てヨォ…」 「…なんだ、まだ立てるのがいたのか。手加減し過ぎたかな?」  でもなぁ、そうしないとコイツら死んでしまうし。  そんな恐ろしい事をフードの者は独り呟く。  その言葉が聞こえなかったのか、男Bは一度返り討ちにされたにも関わらず、懲りずに背後から襲いかかる。 「バカが」  身体を後ろ向きに捻りながら回し蹴りをし、その脚は見事に男Bの鳩尾(みぞおち)にクリーンヒットした。  再び壁に叩きつけられた男Bはしかし、次は怒りに囚われず、ただ呆然と己を蹴り飛ばした者を見つめる。  その顔は徐々に恐怖一色へ染まってゆき、唇を戦慄(わなな)かした。 「お、お前…いや、アンタはまさか……」 「あれ?ボクを知ってるんだ」  目深に被っていた黒のフードは背中にいき、顔が露わとなった美少年はニヒルな笑みを浮かべながら、コテンと首を(かし)げる。さらりと、月光の下で輝く長い銀髪が揺れた。 「君はボクの攻撃を受けて気絶せずにいたし、自己紹介をしてあげよう。初めまして、ボクは銀蝶─ソロの族潰し(けん)情報屋だ」  そう言って美少年─銀蝶はにこやかに笑って、中世の西洋貴族がするような礼をした。  その様子は銀蝶にとても似合っていて、そして、今この場にはとても場違いだった。 「あ、アァ…ヒッ、や…」  壊れてしまったのか、男Bは意味のない言葉しか出さない。 「五月蝿(うるさ)いなぁ…」  銀蝶はそれを見て、面倒くさそうに顔を(しか)める。  だが、すぐに興味を失った様子で、自らの銀髪を人差し指にくるくると巻き付け(もてあそ)び始めていた。 「じゃ、ボクはそろそろ行くね。さようなら…もうボクの前に現れるなよ、()()」  フードを被り直しながら一時的に壊れた男Bを嘲笑(あざわら)い、そう言った銀蝶は、ついでと言わんばかりに去り際、さり気なく男の首に手刀を落とした。  意識が無くなる前に男Bが見たのは、この場から早足で遠ざかる銀蝶の後ろ姿だった。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

879人が本棚に入れています
本棚に追加