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傍から見ると、フードの者が圧倒的不利だろう。
あちらは複数人いるばかりでなく、皆ガタイがいい。
それに比べてフードの者は1人で、体付きが華奢だ。
男達もそう思ってるのだろう。襲いかかるその瞬間の顔は、余裕に満ちていた。
しかし、予想に反してその者は、男達の攻撃を最小限の動きで躱した。そして、今まさに頬を殴ろうと、男Aの伸ばされた拳を片手で受け止め、もう片方の手で腕を掴み、投げ飛ばした。
投げられた男Aはかなり吹っ飛び、建物の壁にぶつかった後、ぴくりとも動かない。恐らく気絶したのだろう。
その間、実に数秒程度。
仲間がやられた事実を把握した残りの男達は、僅かな間呆然としていた。が、すぐ我に返ったかと思うと、怒りに目を染め、勢いよく襲いかかる。
それを、フードの隙間から冷静に見る赤と碧の光があった。
…………
数分後、その場に立っている者はフードの者、ただ1人だった。
周りには気絶した男達が無様に転がっている。
「……弱っ…」
それだけを小さく呟いて、立ち去ろうと歩き出した…が。
「………ゴホッゴホッ…ハァ…」
背後で先程転がした奴らのうち1人が、ヨロヨロと立ち上がった。
「……ゴホッ…待てヨォ…」
「…なんだ、まだ立てるのがいたのか。手加減し過ぎたかな?」
でもなぁ、そうしないとコイツら死んでしまうし。
そんな恐ろしい事をフードの者は独り呟く。
その言葉が聞こえなかったのか、男Bは一度返り討ちにされたにも関わらず、懲りずに背後から襲いかかる。
「バカが」
身体を後ろ向きに捻りながら回し蹴りをし、その脚は見事に男Bの鳩尾にクリーンヒットした。
再び壁に叩きつけられた男Bはしかし、次は怒りに囚われず、ただ呆然と己を蹴り飛ばした者を見つめる。
その顔は徐々に恐怖一色へ染まってゆき、唇を戦慄かした。
「お、お前…いや、アンタはまさか……」
「あれ?ボクを知ってるんだ」
目深に被っていた黒のフードは背中にいき、顔が露わとなった美少年はニヒルな笑みを浮かべながら、コテンと首を傾げる。さらりと、月光の下で輝く長い銀髪が揺れた。
「君はボクの攻撃を受けて気絶せずにいたし、自己紹介をしてあげよう。初めまして、ボクは銀蝶─ソロの族潰し兼情報屋だ」
そう言って美少年─銀蝶はにこやかに笑って、中世の西洋貴族がするような礼をした。
その様子は銀蝶にとても似合っていて、そして、今この場にはとても場違いだった。
「あ、アァ…ヒッ、や…」
壊れてしまったのか、男Bは意味のない言葉しか出さない。
「五月蝿いなぁ…」
銀蝶はそれを見て、面倒くさそうに顔を顰める。
だが、すぐに興味を失った様子で、自らの銀髪を人差し指にくるくると巻き付け弄び始めていた。
「じゃ、ボクはそろそろ行くね。さようなら…もうボクの前に現れるなよ、雑ァ魚」
フードを被り直しながら一時的に壊れた男Bを嘲笑い、そう言った銀蝶は、ついでと言わんばかりに去り際、さり気なく男の首に手刀を落とした。
意識が無くなる前に男Bが見たのは、この場から早足で遠ざかる銀蝶の後ろ姿だった。
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