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「真琴、お前は銀蝶について何か知ってるか?」
会長から急に話をふられ、僅かにビクリとする。
バレない程度に少しだけ溜め息をつき、向き合っていたパソコンから顔を上げて会長達の方向を見た。
「…会長~、俺が知ってるわけないでしょ~。というかぁ、銀蝶って誰なわけぇ?それにぃ、そんな話を俺がいるところでしていいのぉ~?俺はぁ、一応一般人なんですけど~」
「知らないか…。あぁそれと、この話はお前が聞いていても特に問題ねぇ。つか、お前も入りゃいいんだよ。そうなれば、ここでも気にすることなく話せるしな」
「リュウ…いい加減諦めたらどうですか?その事は水無月に毎回毎回断られているでしょう」
「そうだよ総長ー!」
「マコちゃんに毎回振られてる癖にー」
「「しつこいと嫌われるよー!!」」
「さんに…の、言うと、り…」
族に入るよう勧誘してくる会長に、毎回断っている俺を見ている副会長達が代わりに言ってくれた。
「と、言うわけだからぁ、会長諦めてねぇ~」
「チッ」
「あ、会長が舌打ちしたぁ!!」
「かいちょ…した、ち…めっ…!」
うちの子が相変わらずかわいい。
近くにいたら、きっとワシャワシャと頭を撫で回していたことだろう。
「そういえばぁ、会長が1番終わってないんでしょ~?早くしないとぉ……降臨するよ?」
「!!!!」
俺の放った言葉によって顔が一瞬だけ真っ青になった会長は、急いで書類に向き直った。
つられて双子と慶も各自取りかかる。
その顔に浮かんでいる表情は、絶対にあのお方を降臨させないよう必死なものだ。
そのお方である当の副会長は、あくまでマイペースにパソコンでの作業に取りかかる。
会長達がきちんと行い始めた為、かなり満足そうだ。
勿論俺も降臨だけはさせたくないので、パソコンに向き直る。
…とはいうものの、それは先程までの話を終わらせる為の、ただの口実でもある。
あれ以上、銀蝶と族関連の話題をしていたくなかった。
でないと、俺が要らぬ墓穴を掘りそうだと思ったから。
皆にとって、俺は族などの裏の世界に関係しない一般人だ。
銀蝶という人物について知っているはずがないし、そうでなければならない。
しかし本当は、銀蝶について誰よりもよく知っている。
俺自身について、彼らに知られてはならない。
秘密がありすぎて、遠い昔に嘘をつくのも隠すことも慣れてしまった。
その秘密の一部が、銀蝶について誰よりも知っている理由。
それは─
俺、水無月真琴が、銀蝶本人だからだ。
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