銀蝶という者

5/10
前へ
/129ページ
次へ
「真琴、お前は銀蝶について何か知ってるか?」  会長から急に話をふられ、僅かにビクリとする。  バレない程度に少しだけ溜め息をつき、向き合っていたパソコンから顔を上げて会長達の方向を見た。 「…会長~、俺が知ってるわけないでしょ~。というかぁ、銀蝶って誰なわけぇ?それにぃ、そんな話を俺がいるところでしていいのぉ~?俺はぁ、一応一般人なんですけど~」 「知らないか…。あぁそれと、この話はお前が聞いていても特に問題ねぇ。つか、お前も入りゃいいんだよ。そうなれば、ここでも気にすることなく話せるしな」 「リュウ…いい加減諦めたらどうですか?その事は水無月に毎回毎回断られているでしょう」 「そうだよ総長ー!」 「マコちゃんに毎回振られてる癖にー」 「「しつこいと嫌われるよー!!」」 「さんに…の、言うと、り…」  族に入るよう勧誘してくる会長に、毎回断っている俺を見ている副会長達が代わりに言ってくれた。 「と、言うわけだからぁ、会長諦めてねぇ~」 「チッ」 「あ、会長が舌打ちしたぁ!!」 「かいちょ…した、ち…めっ…!」  うちの子が相変わらずかわいい。  近くにいたら、きっとワシャワシャと頭を撫で回していたことだろう。 「そういえばぁ、会長が1番終わってないんでしょ~?早くしないとぉ……降臨するよ?」 「!!!!」  俺の放った言葉によって顔が一瞬だけ真っ青になった会長は、急いで書類に向き直った。  つられて双子と慶も各自取りかかる。  その顔に浮かんでいる表情は、絶対にあのお方を降臨させないよう必死なものだ。  そのお方である(とう)の副会長は、あくまでマイペースにパソコンでの作業に取りかかる。  会長達がきちんと行い始めた為、かなり満足そうだ。  勿論俺も降臨だけはさせたくないので、パソコンに向き直る。    …とはいうものの、それは先程までの話を終わらせる為の、ただの口実でもある。  あれ以上、銀蝶と族関連の話題をしていたくなかった。  でないと、俺が要らぬ墓穴を掘りそうだと思ったから。  皆にとって、俺は族などの裏の世界に関係しない一般人だ。  銀蝶という人物について知っているはずがないし、そうでなければならない。  しかし本当は、銀蝶について誰よりもよく知っている。  俺自身について、彼らに知られてはならない。  秘密がありすぎて、遠い昔に嘘をつくのも隠すことも慣れてしまった。  その秘密の一部が、銀蝶について誰よりも知っている理由。  それは─  俺、水無月真琴が、銀蝶本人だからだ。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

879人が本棚に入れています
本棚に追加