ぼくもキライ

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「桜ってクローンなんだって」 「……」 「だからキライ」  ぼくが何かを言う前に、目の前の男は言った。 「……と、言うと?」 「なにが」 「桜がクローンだって話。ほんとなの?」  台所でカチリと音がした。電子ケトルが沸いたんだ。  ぼくは客なのに、この男はお茶をいれてくれたことがない。仕方ないから勝手に棚からカップを二つ、同じようにインスタントコーヒーをいれる。 「ソメイヨシノがそうらしい」 「そっか」  男の前にコーヒーを置くと、対価のように答えが返ってきた。 「キライ、キライ」 「うん」 「キライだ、キライなんだ」 「うん」  カップから立つ湯気。男の声に肯定するようにゆらゆら揺れる。  湯気につられて顔を上げると、男もまた顔を上げた。 「キライ。ぼくと同じ存在なんて、ダイキライだ」  ぼくと瓜二つの男が、そう吐き捨てた。
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