序章 前口上

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 円熟したと言えば聞こえが良いが、裏を返せば目新しさがなくなったという感がある。人々の興味も奇術に留まることはなく、常に新しい刺激を求めている。  その証拠にオッペケペー節で巷を虜にした川上音二郎の一座をはじめとする、新派劇の人気も上り調子のようだ。六月には国産初の活動写真(映画)「芸者の手踊り」が上映され、新しい時代の幕開けだと話題になっていた。  そんな訳でかつては連日のように大入り満員だった公演も、残念ながら最近ではちらほらと空席が見えるようになっている。 「ネタが尽きたというわけでもないが、最近はどうにも客足が伸びないな」  座長である聡一も頭が痛いところだ。 「そうね、この状況だと今日も大入り満員とは言えないわね」  思わず華子の口からため息が漏れた。昨年の百美人殺人事件から色々と学ぶことあって、いつものうっかりは影をひそめている。  これで少しは一座を盛り上げていけると喜んだのも束の間。客の関心が徐々に離れ始めていたのだ。是が非でも打開策を考えねばという時に、思わぬ人物が思わぬ話を持ってくるのであった。  
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