上海公演、幻と化す?

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 そして、座長の聡一から挨拶代わりに小奇術、サムタイなどを代わる代わる披露していく。前半の見せ場は急遽演目変更したバスク攻めだ。  ここでは志乃が弾くリードオルガンに合わせて環が三味線を奏でるという、異国情緒溢れる演出も効果的だった。   一夜漬けで作った簡易の仕掛けながら、観客の目を騙すには上出来だった。自国でも滅多にお目にかかれない大仕掛けの奇術に、観客たちは度肝を抜かれたようだ。  その後に続くのは環が演ずる、みなしご少年の仇討ち物の寸劇だった。   妖しい美少年侍の優美な剣の舞に誰もが魅了され、その流れで聡次と勝夫婦の蝶の舞が静やかに始まる。  音のない空間に舞う二匹の蝶を、固唾を飲んで観客たちは目で追う。紙でできた蝶はまるで生きているかのように空中に舞っている。  最後はシンバルの音を合図に色鮮やかな電灯に照らされて、紙吹雪がまるで蝶の大群のように舞台に飛び放たれた。 「素敵……このしっとりした優美さは、西洋にはない特別なものね」  うっとりと舞台を見守る志乃も思わずため息を漏らした。
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