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「さぁて、我々も片づけをしようか」
三日間の予定の公演だったが、思わぬ騒ぎで今夜限りの夢舞台となってしまった。
「せっかく喜んで貰えたのに、一回きりなんて悲しいわ」
もっと多くの人に見てもらいたかったと、華子も心の底から悔しがる。
「とんでもない! あんな頓珍漢な言いがかりが付いたんだから、早くおさらばしたいくらいだぜ」
異国の地の警察は日本以上に信用できないと聡吉は嘆けば、つかさず勝がなだめた。
「でも、上海警察も一座の舞台を見たら、余計なことをしたって後悔したかもね」
「あら? 志乃さんはどこかしら?」
虫の知らせか、急に華子が志乃の姿を探し始めた。
「外で英吉利大使と話をしているんじゃないか?」
聡一は大舞台を成功させた高揚感でいっぱいらしく、志乃のことなど頭になかったようだ。
「でも、英吉利大使ならウィリアムさんと一緒だった気がする」
不審に思った環が呟いた。すると、聡吉も思い出したように賛同した。
「それなら俺も見たぜ」
何故か嫌な予感がしたのか、環と聡吉が慌てて倉庫の外へと向かった。
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