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美術工芸品の貿易を商うカーター商会だったが、事業変更で上海の事務所を引き上げ、英吉利の海峡植民地のひとつ新嘉坡に拠点を置くことになったらしい。
これからまだまだ発展し続ける上海に見切りをつけるのは早過ぎる、という周囲の反対する声もあったそうだ。だが、巨大に成長する市場で戦うのには年を取り過ぎたと、ジョゼフだけでなくウィリアムも考えていたそうだ。
「上海はbig marketね。でも、私、少し年を取り過ぎた。あと十歳、いや二十歳若ければ、もっとchallengeできる。でも、シンキイッテン。新しいbusiness始めます」
「それで馬来西亜で採れる錫を使った白目製品を英吉利で販売するのですね?」
「Yes. 儲けるばかりがbusinessではないですね。今度はより良い品をじっくり見定めて販売していくつもりです」
欧羅巴では英吉利のウィリアム・モリスによって始められた手作りを原則とする中世的な職人芸を理想とした芸術工芸運動(*アーツ・アンド・クラフツ運動)と、その後に新しい造形様式アールヌーヴォーが流行した。その流れで再びピューターが評価され、地位が確立されたといわれている。
この動きに目を付けたカーター商会は、馬来西亜に近い新嘉坡への移転を決めたらしい。
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