アダザクラ

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 家に帰って、着替えだけ済ませてすぐに出た。仕事場はここから歩いて20分のところにある介護施設。デイサービスのスタッフとして勤務して、もうすぐで3年くらい経つ。  最初は家から近くて楽そうだったことを理由に応募した。給料は思ったよりも低かったけど、生活できないこともないので一応満足はしている。相手にするのはご高齢の方ばかりなので、腹立つことはあるけど癒しもある。  日毎に変わる利用者さんの名簿を見て、支度をする。9時になればバスが利用者さんを届けにくる。  まずは入浴のためタオル類を…、と思ったところで、今朝のホテルの清掃員を思い出した。あの瞬間は提供者と利用者としてしか見ていなかったけれど、こうして見ると、私と彼は似たような仕事をしている。  入浴のための準備を終えたら、休む間もなく昼食に入るので、そのための準備もできるだけしておく。すり潰されていく料理や食材はお世辞にも美味しそうとは言えないが、生きていくために必要な糧なのだ。 「おはようございます〜」  9時、開館。利用者さんが続々と入ってくるので、順番にバイタルチェックを行う。体調面を見ておくことは今日一日の過ごし方に大きく影響するので、一番重要業務だったりする。 「アオちゃん」  後ろから声をかけられた。吉田さん。御歳86歳のおばあちゃんだ。 「今日も別嬪さんね〜」 「ありがとうございます。吉田さんもお綺麗ですよ」 「まぁまぁ、ありがとう」  シワだらけの顔をくしゃりと歪めて、余計にシワを増やして笑う。こういう瞬間、この仕事をやっていてよかったと思う。
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