アダザクラ

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 だいたい17時過ぎには終わる業務だが、一日を終えると大きく息を吐くくらいには疲れる。身支度を終えて、施設を出れば、まだ明るい空が広がっていた。お酒が飲みたい。お腹も空いた。今日は男性に絡まれるのはめんどくさいな〜と思いつつ、行きつけのダイニングバーに足が向いてしまうのは習慣というものだろう。 店内に入ると、いつもオシャレなジャズが流れている。カウンターの端に座って、注文よりも先に髪を解いた。 「こんばんは」  言いつつ目の前にコースターを置かれる。マスターに会釈。 「今日は何から?」 「ご飯食べていいですか」 「どうぞ」  メニューを出される。パスタやグラタンが種類豊富だけど、今日は胃に優しいものがいい。唯一の和食枠にある明太卵とじ雑炊を注文した。 「お飲み物は」 「…あー、ご飯食べたら飲むので、とりあえず烏龍茶で」  出てきた雑炊を一人で食す。お昼は軽く食べたけど、午後の労働ですべて体力のために消化されてしまったのか、空腹の胃に温かく染みていく。日本人たるもの、やはりお米との相性は抜群。  一人静かに晩ご飯を楽しんでいると、徐に隣に男性が座った。横目にカウンターを見ても、他の席はどこも空席である。  あ、まずい、と思った予感は的中した。 「おひとりですか」 「はい」  反射的に笑顔で返す。やめろやめろ、笑うな、反応するな。 「よかった。綺麗なので思わず声かけちゃいました」  聞き慣れたセリフ。無視したい。今日はもう疲れている。お酒を飲んで家に帰って、久しぶりに自分ちのベッドで寝たい。お風呂入ってパックして酔いに任せて思い切り寝たい。のに。 「ありがとうございます。嬉しいです」  男性からの誘いを蔑ろにできない自分が心底嫌いだ。  そうしてやってきた同じホテル。朝出てきて夜戻ってきてるので、もはや帰宅。気づかれない程度にため息をついた。
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