アダザクラ

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 同じ朝。同じニュース。一緒にいる相手は違っても、見てるチャンネルがだいたい同じなのは何の偶然なのだろう。呪いか。 「おはよう。眠れた?」 「…はい」  返事をして起き上がる。腰が痛い。ベッドの下に落ちている下着を拾うのも億劫だ。  この人はスーツじゃないのか、ジーパンとパーカーを羽織っている。アパレルの人ぽい。 「アオイちゃんって言ったっけ。すげぇ良かった。よければまた会お。インスタやってる?」  これ俺のアカウントね、と聞いといて返事は待たずに一方的にインスタのユーザーネームを教えられる。やはり。だいたいこの手の"名刺"はアパレル関係か美容師である。もしくはナルシスト。  ありがとうございます、と受け取っておいて、フォローはしない。もはや検索もしない。今までだって同じようにSNSを教えられて、フォローしたはいいもののフォロバが返ってこなかったケースばかりだ。無駄なフォローが増えるのは気に食わない。 「またね」  一緒に出るかすら聞かずに出ていくアパレル。彼奴の名前も知らないのでアパレルと呼ぶことにする。昨日のクズというあだ名の男に比べれば全然マシだろう。セックスは下手だったけど。  痛い腰に鞭打ってブラとパンツを拾った。アパレルはある程度の許容があったため、すっぴんを許してくれた。よって今の私はノーメイク。フル装備が終わってから出ることにしよう。  メイクは約15分。昔と比べると4分の1時間にまで減ったというのに、ナンパが増えた。それもこれもこの顔の美しさをお金で買ったからだが。 「…よし」  15分で終えたメイクと共に鍵を持って部屋を出た。今日は口紅は忘れていない。 「あのっ!」  突然、後ろから声をかけられて驚く。ラブホテルの廊下で話しかけられたことなんてないから何事かと振り返ったら、昨日鉢合わせた清掃員がいた。  え、と戸惑う。鉢合わせてはいけなかったのではないか。今話しかけられているのは私で合ってるよな。 「すみません、話しかけてしまって」  言いながらずんずん近づいてくる清掃員。近づくにつれて彼が高身長だということがわかる。思わず後ずさりしたが、距離を詰められて、最後にマスクを取った彼は、意外にもかわいい顔をしていた。 「あの、俺、葉山蒼と言います。突然すみません、俺と、…っ友だちになってくれませんか!」  勢いよく頭を下げて右手を出される。さながらテレビのお見合い企画のような申し出の仕方で、驚きすぎて声も出ない。 「え、えと…」 「……」  振り絞って何か言おうとしたが、何を言えば正解なのか分からない。男の子は頭を下げて手を出したまま動こうとしないし、今の発言権はまだ私にある。  長らく悩んで、とりあえず頭を上げてもらった。 「あの、なんで私を…?」 「一目惚れです!」 「おお、直球だね」 「まさかもう一度お会いできるとは思わなかったので、声かけてしまいました。すみません」  今度は謝罪で頭を下げられたので、もう一度上げさせる。 「清掃員さんと鉢合わせるのは気にしないんですけど。ただ、こうして声をかけられるのはちょっと…」 「あ、そう、ですよね……すみません……」  しゅん、と効果音が見えそうなくらいわかりやすく萎れる男の子。罪悪感がすごい。  しかしまぁどうしたものか。このホテルを利用しているということは、私はそういうことをしているのであって、それが昨日も今日も別の男の人だということを、この子は気づいていないのだろうか。私だったらこんな相手絶対嫌なのだが。いや、ていうか早くここから出たい。 「…LINEだけでも、交換してくれませんか…」  純粋な目で見上げられる。私よりも背が高いのに、低くから上目遣い。わざとなのか素でやっているのかわからないが、かわいい。理性が大きく揺れて、倒れた。 「……LINEだけなら」  蚊の鳴くような声が出た。それでもその子はちゃんと聞き取ったみたいで、一気に表情が明るくなる。 「あの、あのっこれっ、俺のアカウントです!メッセージください!」  メモに乱雑に書いたLINEのIDを手渡して、彼は一礼すると業務に戻ってしまった。手に持たされたメモを見て、眉間にシワが寄る。  …本当に、男性からの誘いを蔑ろにできない自分が心底嫌いである。
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