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1 フローラと灰色さん
入口の鐘がカランと一つ鳴って、客の訪れを告げる。
開け放したままの店の扉から、客と一緒に涼しい秋風がサアッと店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
フローラは花束を作る手から目を上げて、店先に向かって明るい声をかける。
花屋の店先には、色とりどりの華やかな場所には似合わない、旅装束のような暗い灰色のフードを被った男が一人立っていた。やや高めの背丈に、武人らしい引き締まった体つき。フードの中の表情は無愛想で、少々威圧感のある雰囲気をまとっている。
男はフローラのかけた言葉に、無言で小さく頷くだけの会釈を返す。
(あ、灰色さんだ。今週も来てくれた……!)
フローラは男の姿を見て胸を高鳴らせる。
そして平気な素振りで手元に視線を戻し、花束を作る作業を続けた。
初めて見た時はあまり見ない風体の客にギョッとしたが、怪しい人ではないともう知っている。
夏の終わり頃から毎週水曜に花を買いに来てくれている。もうすっかり常連のお客様だ。だけど何度も通ってくれているのに、他の客とは違って、話をしたことはほとんどない。灰色フードの男はいつもどおり無言のまま、店先の花を選びはじめた。
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