1 フローラと灰色さん

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 フローラは小さな城下町で、領主の城に面した通りの小さな花屋を営んでいる。  明るく少しカールしたベージュの髪に、大きな緑の瞳。頬には薄くそばかすが散らばっていて、整った顔立ちに親しみのある印象を与えている。幼い頃から花や植物が大好きで、明るく朗らかな性格のフローラは、花屋という商売に向いていた。独立心も強く、若いながらも早々に自分の店を構え、フローラの小さな店はそれなりに繁盛している。  大抵の人は、美人なフローラが見せる人懐っこくて気さくな笑顔に気を許し、すぐに話を弾ませる。フローラも人と話をするのは大好きだ。でも、そうじゃない人がいることもわかっていて、この灰色フードの人はそういう人だ。こちらから話しかけたりはしない。  誰とでも仲良くなれたフローラだけど、特別な人はこれまでいなかった。仕事柄、他人の恋愛を垣間見ることは多いから、運命の人なんてものに憧れる気持ちは持っている。でも仕事ばかりしていたために、すっかり恋愛ごとに疎くなってしまった。  見た目がそこそこ良いために、何人かの男から誘いを受けたことはある。花屋という仕事も、きっと可憐さを増すのだろう。   だけど、話題といえばいつも植物のことばかり。華奢に見えるけど、実は意外と力仕事が得意。あちこち花を仕入れに行くから、休日もそんなに空いてない。泥や汚れも気にしない。甘く繊細で美しい姿に惹かれた男たちは、シュンっと心を冷やすのだろう。花屋の仕事に夢中のフローラは、「思ってたのとちょっと違った」なんて理由で、すぐに勝手に振られてしまう。  そんな男なんてこっちから願い下げ! といつも友人は怒ってくれる。  お姉ちゃんは仕事ばっかりで相手のことを考えなさすぎ! と妹には怒られる。  どちらにしても、自分が相手を本気で好きじゃないからそんなふうになってしまうんだろうなと、フローラはなんだか相手に申し訳ないような気持ちばかり。すっかり恋愛から遠ざかってしまっている。  けれどこの灰色フードの人のことは、なぜかフローラの中で特別気になる人になっていた。
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