11 子どもみたいに不器用で純粋な告白

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 くたくたの二人は、しばらくぼんやり互いの顔を見つめていた。  フローラは、自分がひどい格好をしてるだろうなとふと気づく。今までで一番近い距離で、一番疲れた顔をしてるなんて。服も泥だらけだし、髪もぐちゃぐちゃ、顔だってきっとひどいものだろう。  オスカーの前では一番きれいで上手に振る舞いたいと思うのに、なんだかいつもうまくいかない。だけど、ともかくこうして会えたのだから、心底良かったとフローラは思った。この人に会えて、本当に良かったと。 (そろそろオスカーさんは警備に行かなきゃいけない時間かな。こんなギリギリの時間なのに、わざわざ来てくれたことがとてもうれしい。一緒に庭園披露宴に行けなくなっちゃったのは残念だけど、ドレス姿を見てもらうくらいの時間はあるかしら)  そんなことをフローラが考えていると、隣に座っていたオスカーがフローラの方を見たまま、ほろりとこぼすように、一言呟いた。 「好きです」 「…………えっ?」  一瞬意味がわからなくて、でも、理解した瞬間、フローラは顔を真っ赤にしてオスカーの顔をまじまじと見つめた。  いつもの無愛想な顔が、しまった、と言うように視線を逸らす。 「あ、いや、違う。いや、違わないです。急に言ってしまって申し訳ない。もっとちゃんと言うつもりだったのですが、思わず」  珍しくあわてた様子のオスカーを見て、フローラもつられてあわててしまう。 「えっ、でも、あの、オスカーさんには好きな人がいらっしゃるのでは……」 「はいっ? だとしたら、あなたですよ」 「ひえ、ああありがとうございます?」  あわてて謎のお礼を言ってしまう。 「いえ、あの、ほら以前お見かけした女性の方……あの方は特別な方なんじゃないですか?」 「あ……そうか、説明まだでしたね。申し訳ない。あの方は王姪エリザベス様です」 「ええっ、エリザベス様……って領主様とご結婚された王家の姫君様……!? でも、あの日お見かけした場所って……」  だってあの日見かけたのは、下町の温浴場だ。オスカーはいつもの表情に戻って、淡々と答えていく。
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