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12 支度しましょう
熟睡していたフローラが目を覚ますと、頭はずいぶんすっきりしていた。体もだいぶん軽くなっている。短い時間でも、ぐっすりしっかり眠れたようだ。外はまだ少し明るく日が残っていて、夜までには城へ行けるだろう。
ベッドから身を起こすと、近くのソファに座ったまま眠り込んでいるオスカーの姿が目に入った。
(寝顔だと少し幼く見える、かわいい……)
もう少し近くで見たいとベッドを降りようとした時、パチリと目を開けたオスカーと目が合った。
「お、おはようございます……?」
あわてて変な挨拶をしてしまう。起きたばかりだから朝の挨拶? でももう夕方。それに寝起きの「おはようございます」なんて、ちょっと恥ずかしいような気持ちになる。
「休めましたか?」
寝起きの少し掠れた声で尋ねられ、フローラはさらにドギマギしながら返事する。
「はい、ばっちりです」
さっきのやり取りを思い出すと、少し照れくさくてぎこちない。でも、オスカーのいつもと変わらない落ち着いた声に、心が穏やかに満たされていく。
「オスカーさんこそ休めましたか? ほんと椅子なんかでごめんなさい……」
「大丈夫です。仕事柄どこでも寝られます」
「そういうものですか? 今夜はゆっくり休んでくださいね」
「ええ」
もちろん一眠りの前に、どちらがベッドを使うかで一悶着はあったのだ。怪我人をソファで寝させるわけにはいかないフローラと、家主を差し置いて女性のベッドで寝るわけにはいかないオスカーの戦いは、どちらが勝ったかは先ほどの通りだ。
「じゃあ、支度しましょうか」
フローラがそう言うと、オスカーは軽く頷き一階へと降りていった。
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