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そんな風に話をしていると、あっという間に城の正門が見えてきた。城門は開け放たれ、中でたくさんの人が賑わっている。
フローラがオスカーの腕にそっと手を添えると、オスカーはもう片方の腕でその手を優しく包んでくれた。なんだかずっと昔からこうやって一緒にいたような気がして、ドキドキするのにすごく落ち着いた。
(ライラとアレックスにも会えるかな。あっ、ジル奥様もいらしてる。なんて素敵なドレス。こちらに気付いて手を振ってくださっているわ。あら、ホラスのご主人の大きな笑い声も聞こえてきた。ご無事でよかった。きっと大好きなお酒を飲みにきたのでしょうね。ヒルダ姉さんにも挨拶したいな。ご覧の通り、全部すっかり大丈夫ですよって伝えたい)
日が沈み、空が群青に変わり始める。会場内に飾られたオレンジのランプ草がポツリポツリと灯されて、庭園はあたたかな光に包まれていく。
会場はどこもかしこも美しく、祝福を告げる鮮やかな花々と人々の笑顔に満ちている。フローラやオスカーたちに起きた昨日からの大事件など、全くなかったかのような平和な光景だ。
当たり前の毎日と、時にはこうやって特別な日を過ごせる暮らしが、ずっとずっと続けばいい。大切な人がいて、みんなが笑っていられるような。
多分、本当は当たり前なんかじゃなくて、きっと誰かが一生懸命につなげているような平凡な日々。私の花がその日々を彩る手助けになるのなら、こんなにうれしいことはないだろう。
フローラは思わず胸がいっぱいになって、オスカーを見上げて微笑んだ。自然と目が合い、オスカーが小さく微笑みを返す。
遠くから見ていた、あのとびきりステキな笑顔だった。
(了)
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