Chapter1:アスペルガーの主人公

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未夕先生はそう言ってミステリーツアーを勧めてきたが、話を聞いた時点での俺は楽しそうという期待より、不安と疑いの方が強かった。 無人島で謎解き?男女ペアで? なぜ施設とかではなく、無人島でなくてはならない?真夏だから? それなら沖縄とかのきれいな海でやるならまだしも、大分?無人島なんてあったか?地理好きな俺でも、温泉のイメージと、高崎山の猿しか浮かばないのだが……。 それにミステリーツアーというと、昨今では目的地が当日まで知らされない旅という印象が強い。イベントの方の"ミステリー"ならば、何かしら推理する要素があるはずだが、ただ単に謎解きだけなのだろうか? 俺が沈黙して頭の中でぐるぐると?マークを連発していると、先生は見るに見かねて更に付け加えた。 「もう!考えてるくらいなら、あとで自分で調べてみなさいよ。その謎解きとやらも、地理が関係しているそうよ。あなたの得意分野じゃない。私からは強制できないから、せめてもの情報提供として教えておくわね」 「わかりました。あとで調べてみます。ちなみにその無人島の名前ってわかりますか?」 「えっと、確か恋が実る島で"恋実島(こいみじま)"。そういえば『恋実島ミステリーツアー』って書いてあった気がする」 「恋実島ですね、ありがとうございます。興味あるんで参加するかもしれません。教えていただいてありがとうございました!」 地理が関係していると聞いて、俄然興味を引いた俺は、未夕先生に笑顔でお礼を言った。 恋愛ミステリーツアーか。 何だか面白そうだな。 もしかして初彼女、できるかな。 んなわけないか、とりあえず調べてみよう、ははは。 大事なのは俺自身がこの泥沼な状況から抜け出して、明るい未来を切り開けるかどうかだ。そのきっかけが恋愛なのだとしたら、それはそれで大きな励みになるかもしれない。 俺はそんなことを思いながら、支援センターを後にした。
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