Chapter1:アスペルガーの主人公

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・応募要件:18歳から27歳までの、現在恋人がいない独身男女。ツアーのシステムの都合上、定員は8名までとなります。応募者多数の際は、誠に申し訳ございませんが、当社の方で審査をさせていただく場合がございます。必ず男女4人ずつになるように調整いたしますので、ご安心くださいませ。 ・こんな方にオススメ! ★恋愛経験がない、あるいはほとんどない方 ★失恋が辛くて、前に進もうと考えている方 ★地理が好きな方、きれいな景色に感動する方 ざっと目を通した俺は、この不思議な企画に大いに違和感を覚えた。 定員は8名になぜ限定する?そもそも主催した側が客を厳選するなんておかしい、何様のつもりだ? それにテントで宿泊って…キャンプかよ。まあ値段は確かに安いけど、こんなヤバそうなツアー、人集まるのかな。 だが、恋愛未経験で失恋ではないものの、現状を変えたいと思っていること、加えて地理や絶景が好きであること。確かに俺に向いている企画と言われれば、そうなのかもしれない。 いつも保守的かつ慎重に物事を考える癖があるため、大事なことをすぐに決められない(たち)だが、今回は迷っている場合ではないと感じていた。 26歳という年齢もあり、いつまでも不安定な非正規雇用で先が見えない毎日では困る。障害者枠での就職活動になるとは思うが、そろそろ正社員で働きたい。そしてできれば彼女も作って支え合える関係性を構築し、前を向いて生きていきたい。 なぜかこの時、ふつふつと力がみなぎるようなポジティブ思考のエネルギーが沸き、この珍しいツアーに運命を感じた。 よし、参加しよう。 そう決めた俺は、応募フォームに氏名や年齢などの個人情報を入力し、アンケートに旅への意気込みを(つづ)った。これは定員オーバーした際、主催した企業側が行う人選の審査を通過するための材料になるらしく、なるべく丁寧に書いたほうがいいとの忠告が記載されていた。 「やれやれ。アスペでコミュ障とか、ネガティブなことまで書いちまったぜ。まあ嘘は書けないし、俺と似たような女性が参加してくれたらいいな。精神障害を抱えている者同士なら、恋愛に発展してもお互いに分かり合えるかもしれないからな」
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