Chapter2:強迫性障害のヒロイン

1/7
前へ
/229ページ
次へ

Chapter2:強迫性障害のヒロイン

1 カフェ 黒住爽が恋実島ミステリーツアーに応募した日の翌日の夕方、東京都内のあるカフェで女性2人が会話をしていた。 「そろそろ私、恋愛したい。新しい彼氏ほしいんだよね~」 「いいね!もう別れて3ヶ月でしょ?この前、元カレさんのことは吹っ切れたって言ってたし、探したらどうかな」 「まあ実際はまだまだなんだけど、見返してやりたいって気持ちが強くてさ。振ったの向こうの都合なんだから、いつまでも引きずってたら悔しいじゃん?」 「そうだね、辛いだけだもんね。やっぱ明るいなあ(なつめ)は。ちゃんと前を向こうとしてるし」 「根っからの性格だからね(笑)。そういう由麻(ゆま)こそどうなん?彼氏欲しくないの?」 「私は…今まで付き合ったこともないし、中学高校と女子校だったから、恋愛ってあんまりわかんなくて。でも支え合えるパートナーはいたらいいなとは思うよ」 由麻と呼ばれた、黒のボブヘアで前髪ぱっつん、そして右頬下にホクロがある女性が、少し困惑しながら恥ずかしそうに答えた。 彼女の名は波崎(はさき)由麻。もう一方の明るくマイペースな、茶髪でロングヘアのギャル系女性は鳥羽(とば)棗という。まつ毛を妙に上げていて、化粧が濃い。 2人とも精神障害者で、このカフェは精神疾患を抱える者たちが集まり、交流を深めることを主眼とした『光の(つど)い』という場所だ。ここでは定期的にワークショップやグループトークなどのプログラムが行われており、イベントがない通常時はカフェとして飲み物やケーキの販売をしていて、利用者は自由に本を読んだり、談笑したりできる。由麻と棗は、この『光の集い』で知り合った友達同士である。 楽しくしゃべっている2人の間に、背が高くあご(ひげ)が似合う男性が割り込んできた。 「おやおや、恋愛トークですか。若いっていいですね。僕も20代の頃はそれなりにモテましたよ。今の奥さんと付き合ってた頃に、湘南の夜の海をドライブしたのが、いちばんいい思い出だなあ」 急に自分の昔話をしながら天井を仰いでいるこの日焼けした男性が、『光の集い』の店長の相生龍次(あいおいりゅうじ)だ。年齢は42歳だが若々しく見え、優しくイケメンで、本人の言う通り女性にモテそうなルックスである。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加