Chapter1:アスペルガーの主人公

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小学生の男子なら学校に入学したらすぐに打ち解け合い、ゲームや生き物、乗り物の話題などで数人で盛り上がるはず。俺も地理以外にも興味のある趣味はあって、車や電車、恐竜、ゲームもRPGやアクションが好きなのである。ただそれらを他人と共有することができず、自分からは絶対に話しかけられないタイプなので、輪に入れず孤立していたのだった。女子が話しかけてくれたりもしたが、めっぽう恥ずかしがってすぐに逃げていた。自分で言うのもなんだが、ルックスは良く顔は整っているので、これでも一部の女子からは人気があったのだ。だがある同級生(クラスメート)の一言がきっかけで、俺はますます人と関わるのが苦痛になった。 「黒住くんってカッコいいけどぜんぜんしゃべんなーい。つまんないし笑わないし、なんか怖ーい。"お地蔵さん"みたい(笑)。あたし、面白い男の子が好きー」 それを面と向かって言われ、その女児(ガキ)はささっとどこかへ去っていった。 当時小学校1年生の俺は無言で顔を赤らめ、存在を全否定されたような屈辱を受け、背中に悪寒が走ったのを今でも鮮明に覚えている。 __お地蔵さんってなんだよ。呼んでも、ガチガチに固まって何も反応しないからかよ。だけど怖いって言って人を平気で傷つけるお前の方が、よっぽど怖えよ__ まあその子も、思ったままを素直に発言したまでだろう。確かにその頃の俺は、働き出して少しは社会性が身についた今と比べるとガチの"ぼっち"で、恐ろしいくらいに言葉を発しなかった。きっと、しゃべりたくても周囲を意識しすぎて、恥ずかしくてうまく声が出なかったんだと思う。それくらい俺は過剰に人の反応を気にして、ずっと自分を押し殺して生きてきたのだ。誰も、俺のことなんか気にも留めてないはずなのに……。 「あー、タバコうまかった。そろそろ戻らないとオッサンに怒られちまうよな」 「だな。夜になると風が気持ちいいぜ」 俺が昔を回想している間に、例の2人組が"休憩"から戻ってきた。もちろんサボりなのだが、奴らは恥じる様子もまるでなく、何食わぬ顔で再びトラックから下ろされた荷物を運び始めた。
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