Chapter1:アスペルガーの主人公

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2 ソーシャルワーカーからの誘い 後日、俺は仕事が有給休暇の平日を利用して、定期的に通っている発達障害者支援センターを訪れた。ここは仕事のことを中心に、生活で困ってることはないか、あるいは趣味の話など、身近なことも気軽に話せる場で、相談ブースは個室でこじんまりとしていて落ち着く。担当のソーシャルワーカーは40代後半の女性だが、俺の話を親身になって聞いてくれ、俺にとっては家族以外で唯一の理解者だ。 個室に案内され、ソーシャルワーカーの鬼本未夕(おにもとみゆ)先生が、母親が1人暮らしの息子の心配をするかのように、最近の俺の健康状態を確認してきた。 「最近はよく眠れてるの?仕事遅くまでで疲れてるでしょ。ご飯はちゃんと食べてる?」 「はい、それは大丈夫なんですけど。やっぱ仕事がキツくて。8時間ほとんど歩き回って足が痛すぎて…あと、前々から言ってる困った同僚が頻繁にサボってて、俺に運搬を押し付けてくるんです。でも断れない性格だし……。もうなんか無理って感じるし、この会社辞めようかなとか思ってます」 この物流会社での出来事も、未夕先生には自然と話せ、嫌なことは断ったり、上の責任者に相談した方がいいというアドバイスを受けているものの実践できずに、ただ時間だけが流れていた。 「仮にそれがキツくてこの職場を辞めたとしましょう。転職が決まってもしまた同じような壁にぶち当たったら、黒住くんはどうするの?また仕事を変える?そんなことをずっと繰り返してて楽しい?」 「い、いえ全然……」 「厳しいことを言うようだけどね、このままじゃ何も変わらないわよ。その怠けてる2人組を避けてても状況は何ら良くならない。勇気を出して、責任者にきちんと伝えてみたら?何でもかんでもアスペルガーのせいにしてないで」 俺はそう言われ、心にグサッと刃が刺さる思いがした。 未夕先生は時々冷たく突き放すような言い方をするが、それは俺のことを想って言ってくれているのがちゃんと伝わってくる。それに俺はできないことや苦手なことを、なんでもアスペ(アスペルガーの略称)のせいにして逃げていく傾向がある。まさに図星だった。
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