Chapter1:アスペルガーの主人公

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「先生の言う通りです。俺、何かあるとすぐアスペだからとかうつ病だからって、病気や障害のせいにして、現実と向き合おうとしなかった。でももちろん俺にも感情はあるし、否定する権利だってある。相手の言いなりになって自分を犠牲にすることが正解なんかじゃない。それはしかも相手のためにもならない、傷つきたくない弱い自分を守ろうとしているだけ。頭では嫌というほどわかってるんです。だからこそ俺、変わりたいんです。でも何も前に進まなくて…何かいい方法はありませんか?」 俺は少々熱くなりながらも、真剣な顔つきで未夕先生を見て頼んだ。すると先生はちょっと考え始めたのか天井を仰ぎ、少し間を挟んでからこんな提案をした。 「黒住くん。キミ、"恋愛"してみたらどう?」 「れ、恋愛!?」 ソーシャルワーカーがいきなりストレートに、恋愛をしたらと勧めるなんてことがあるのかと面食らい、俺は思わず声を張り上げた。 「でも今の職場は男性ばっかだし、別に好きな女性もいないですし。それにネットやSNSの出会いとかって、あんまりよく分からなくて信用できません」 対人関係が不得意な俺は、男もだが女は更に苦手だ。小1の頃に俺を地蔵扱いした"ツインテガール"を筆頭に、気が強そうな集団に笑いものにされたりといい思い出がない。26年間誰とも付き合ったことがない、いわゆる彼女いない歴=年齢の寂しい男なのである。 ただ恋愛に対して奥手であるのは確かだが、異性に全く興味がないわけではないし、これでも芸能人で好きな女性の俳優が数人はいる。好みのタイプもあって、優しく髪型がショートヘアの似合う女性だ。もし料理が作れればなおいい。 「この前偶然ネットの広告で見つけたんだけどね、大分県のある無人島で『恋愛ミステリーツアー』という企画があるそうなのよ。何でも"謎解き"を男女ペアで一緒に考えて、愛を深めましょうっていうコンセプトらしいの。もちろん必ず恋が成立するわけじゃないだろうけど、男女が協力して1つの目標に向かって知恵を出し合うのも、なかなか面白いし、貴重な経験になるんじゃないかしら。あなたの悩みが、いい方向に傾くかもしれないわよ?」
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