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12.
ただ場所が分かってもたどり着くのは大変だった。なにせ建物の周りは大きな木や岩が取り囲まれており、通じる道は一本もないのだ。
僕と赤坂は建物の周り、正確には建物を取り囲む多くの木々の周りを一周して道がないことを確認した。
「この木は自然のものなのかしら?」
赤坂が周囲の巨大な木々を見ながら、呆れた口調で言った。
「どうですかね? いずれも樹齢百年は軽くありそうな太さですけど」
道がない以上作るしかない。それに木同士が密着して隙間がないというわけではなく、あくまでも枝の多さや岩による道の険しさが邪魔な原因なのだ。行けないこともないだろう。
僕は落ちている大きめの石をとると、斧がわりに枝に打ちつけていった。
作業は思ったよりも簡単だった。
何本か太い木を打ち払うと、あとは手で枝を押しのけ、岩を乗り越えると突然、僕と赤坂、そしふてレイは砂利で囲まれた一軒の洋館の前に立っていた。
「何この壁……」
赤坂が呟きたくなるのも分かる。
何せ洋館の壁はすべて黒と茶色の斑で塗られているのだ。おまけにところどころに緑の蔦が張っている。さらに洋館にしてはかなり低い造り。カステラのような直方体の形をしているが、おそらく二階はないはず。そして屋根部分も、尖った円錐状の部分に雨樋から生えた木やツルが絡まっている。
おまけに周りを巨大松で囲まれていては、ちょっとやそっとでは見つけるのは困難だろう。
「それにしてもこの建物、どうやって造ったのかしら?」
レイが訝げに言った。
「どういう意味?」
「海斗くん。周りをこれだけ太い長寿の松や岩、滑りやすい苔に囲まれているのよ。いったいどうやってここまで材料を運び込んだっていうのよ」
確かに……
レイの言葉に頷いている僕を置いて、先に入口へと向かっていた赤坂が突然、素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと! 何これ〜」
「どうしました?」
慌てて近寄ると、赤坂が両開きのドアを前に立ちすくんでいる。
足元を見ると、大きな水たまり……いや、水たまりと呼ぶにはあまりに大きく深い池ができていた。水草が浮いていたり、カエルの鳴き声もする。
「これ、わざとなのかしら?」
「どうですかね?」
赤坂の問いに僕は首を振って答える。
「淵のあたりとか自然のまんまって感じですし、水が湧き出てきて自然とこうなったのかも……」
僕と赤坂は顔を見合わせると、靴と靴下を脱ぎ素足で池に踏み出した。ひんやりとした冷たさと底の柔らかな土の感触に戸惑いながらも、さっさとドアの前に移動した。
すぐに靴を履き直し、僕たちは豪勢な取ってのついたドアと向き合った。
両開きのドアの鍵は比較的丈夫だったが、ドア自体は腐ってガタガタしてきている。
「これ、少し頑張ったらぶち破れないかしら?」
赤坂がそう言ってイタズラっぽい目で僕を見てくる。
ドア自体を蹴破るのは難しそうだったが、僕は鍵の部分の脇が木目に沿ってグズグズに腐っているのを見つけると、先程の石斧で思いっきり叩いた。
何度か叩いて穴を大きくすると、手を入れて内側から鍵を開けることに成功した。
「なんだかワクワクするわね。少年探偵団みたいで」
ドアを開ける時、赤坂がそう言った。
レイは少しも笑わなかった。
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