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18.
次の日、レイはいつものように普通に姿をみせ、僕もいつもと変わらない様子で接した。
二人の会話はいつもと何も変わらなかった。
「海斗くん。今日の大学は荒れてるぞ〜」
レイが少しからかうような口調でいう。昨日の夜のテレビですでに大体のことは知っている。もちろん最初は驚いたが、今はかなり冷めた感じだった。自分だけが真相を知っているという優越感も多少あったのかもしれない。
普通ではなかったのは大学だった。
大学の入口にはマスコミが詰めかけており、いたるところでカメラを構えている人達がいる。
ただでさえ学校内の有名人が休学した上に、全国ツアーが突如中止になったことでみんな衝撃を受けている上に、これだけ注目されていては浮ついた空気になっても仕方がない。
もっとも普段から浮ついたような性格の人間には関係ないらしい。
僕を見かけると、海堂司が話しかけてきた。
「なあ、聞いたか? 赤坂さん、急に休学だってよ?」
「らしいね」
「どうもS山の北側に登って変な建物を見つけたらしいんだが、そこで妙な病気に感染したらしいぞ」
「S山で?」
情報通の海堂はすでにそこまで知っていた。
僕はあえて驚いたフリをしてみせる。現時点で警察は僕のところに来てはいないので、赤坂は僕のことを話してはいないのだろう。あるいは話せる状態なないか。
「ああ、今朝から一切立ち入り禁止になっているらしい」
「ふーん……でも妙な病気って何だろう?」
「なんか聞いた話じゃ、マラリアだとか言ったっけな」
「マラリア……」
いささか拍子抜けする答えだった。
正直、炭疽菌とかそういう答えを予想していたのだが……
しかし冷静に考えてみれば洋館に漏れ出すほどの細菌兵器なら、とっくに南側の旧日本軍の研究施設は汚染されていたはずだ。
演技ではなく本当に脱力する僕を見て、海堂が自慢のロン毛をなびかせて得意そうに話す。
「最近、海外からの観光客も増えただろう? あの南側にある旧日本軍の研究所にも、結構もの好きな外国人が来ているらしいんだけどさ。その中にマラリアに感染してた奴がいたみたいなんだよ。血を吸った蚊が地下道の水たまりで繁殖してて、あ、そうそうあの陸軍の研究施設な、地下道で何と北側の建物とつながってたんだよ。いや〜驚きだよな。何でも戦後五年くらいしてGHQもやっと発見した、秘密のトンネルらしいけどな」
喜嬉として話す海堂を前に僕はいささか苦笑の状態だった。横を見ると、レイも形のいい眉をぐっと寄せて、やや苦しげな表情になっている。
地下道の推理は当たったが、細菌兵器の推理は外れた。勝負としては引き分けといったところか。
「しかしあの美人アイドルに大学で会えないのは本当につらいよな」
「まあね」
「三上教授の休学は別にどうでもいいけどさ」
え?
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