19.

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 とっさのことで、何と言っていいか分からなかった。三上といえば、赤坂にS山に伝わる伝承を調べるよう勧めた張本人だ。  そういえば、僕はなぜ三上が赤坂にそんなことを言い出したのか気になっていたっけ…… 「ねえ、海堂。三上教授ってさ、普段S山について話したりしてた?」 「えぇ!? 何だよ、突然」 「実はさ……」  僕と海堂は一限目の授業の自主休講を決め込むと、二人で食堂へと向かった。  そして僕は、なぜ赤坂が海堂に僕を紹介してもらったか、あの日二人でS山に登ることになった経緯、そのレポートを勧めたのが三上教授であることなどを説明した。  もちろん、警察に匿名で自分が通報したことなどは伏せておいて。 「そうか、それでか……いや、俺も赤坂さんに調べものの得意な人を知ってるか? って聞かれてお前の名前を出したんだけどさ」 「僕が赤坂さんから聞いたところだと、彼女以外の学生であの山について調べた人はいないと思うんだよね」 「いたら、そっちにまずレポート作成の手伝いをお願いしてただろうしな。そもそもS山にそんな伝承があるなんて初めて聞いたぞ」 「そうなんだよ。でもさ、そうなると三上教授は何でそんなことを言ったんだと思う」 「そりゃえこひいきじゃないか? かわいい女子大学生、おまけに現役のアイドルだぞ? ひいきしないほうがおかしい。俺だって同じ立場なら特別、とっておきなネタを教えちゃうよ」 「君ならするでしょうね」  隣でレイが冷たい視線のまま言ったが、もちろん海堂には聞こえてない。 「じゃあ、三上教授が突然大学を休んでるのは何でだと思う?」  海堂が、少しだけ顔をしかめた。真剣な表情になると流石に男ぶりが際立つ。 「あのな、三上教授の休学が発表されたのは確かに今日だけど、話自体はそれ以前からあったはずだぞ」 「でもさ、残りの授業の予定だって決まってるのにいなくなるのは不自然だよ」  海堂はぐっと身を乗り出すと、声を潜めた。 「まさか教授があえて赤坂さんの体調を悪くさせるために、その洋館へ行かせたって言うんじゃないだろうな?」 「それは分からない」  僕はそう言って肩をすくめた。 「だからまず、三上教授がどんな人か知りたいんだ。海堂なら知ってそうな人、知ってるんじゃない?」  海堂は少しの間考え込むと、やがておもむろにスマホを取り出してどこかにかけ始めた。 「みんなスマホなんだね……」  僕はそう呟いて、ポケットの中の折りたたみ式携帯電話を握りしめる。  そろそろ買い替えようかなんて考えていると、繋がったらしく海堂が電話相手と話始めた。  それから通話口を塞いで、僕に言った。 「前のバイト先で知り合った人なんだけどな。三上教授のゼミを受けていたらしい。ただあんまりいいことは言ってなかったぞ」  僕は頷くと、スマホを受け取った。 「もしもし。武藤海斗といいます」 「あ〜、俺は山科礼二(やましなれいじ)。海堂の知り合いなんだけど、三上教授について聞きたいんだって?」 「はい」 「ふ〜ん……まあ、俺に言わせれば自己顕示欲の塊みたいな奴だったね。上手く隠してたけどさ、周りの奴は生徒だろうが教職員だろうが、みんな馬鹿だと思っててさ」 「……」  僕の沈黙を疑いの声だと思ったのか、山科は少しムッとした声で続けた。 「嘘だと思うんなら、奴のSNSを見てみろよ」 「三上教授、SNSなんてやってたんですか?」 「ああ、匿名のやつをな。所謂裏アカウントっていうやつだ。本人は隠してるつもりか知らんが、バレバレだったぞ」  僕はそのアカウント名を教えてもらうと、礼を言って通話を終了した。  もし本当に匿名の裏アカウントだとしたら、どうやって山科はそれを知ったのか。もしかしたら山科も三上教授になにか不審な匂いを感じとって、身辺を探っていたのかもしれない。 「どうだ? 何か分かりそうか?」  海堂が聞いてくる。   「少なくともゴールには近づいているね」
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