91人が本棚に入れています
本棚に追加
違和感
長身の牧師より大分小柄な“ロイ” が着たというタキシードに着替え、鏡の前に立つ……。
しかし……いくら牧師より小柄といっても俺より優に10センチは背も高く……ガタイもいい…………。
そんな人のタキシードなもんだから……ブカブカを通り越してガバガバだ……。
「……あの…………気持ちは嬉しいんだけど……俺これ…………式で着れる気が……」
視線を逸らしながらそう言った俺の、笑顔が引き攣っているのが自分でも分かる……。
どう考えても……兄のお下がりを着させられている七五三なんてもんじゃない……。
「んー…………まぁ……僕も“プロ” じゃないから……肩幅までは無理だけど……袖と裾は何とかなるんじゃないかな…………あと、ボタンを付け替えて……」
ロイが何やら口の中でブツブツと言っているのに、俺が首を傾げると
「ロイはとても器用でね、裁縫も得意なんだよ」
それに気付いた牧師が、嬉しそうに、そしてどこか自慢気に俺に囁いた。
すると隣の部屋で俺の後に着替えていた忍が牧師のタキシードを身に付け姿を現せた。
白のタキシードが……すごく似合っていて……
思わず目を見張った……。
───子供の頃読んでもらった絵本に出てくる『王子様』みたいだ……。
言葉を無くし立ち尽くす俺に、忍が照れくさそうに微笑む。
「……先輩……おれ、変じゃないですか……?」
見開いたままの俺の目を、少し心配そうに窺う忍に、黙ったまま思い切り首を横に振った。
───変なわけない!めちゃくちゃカッコイイ…………
それでも何も言わず見惚れてしまう俺に忍はもっと照れたように笑い
「……先輩も…………すごく…可愛い……」
恥ずかしそうに口にした。
───七五三だから……?…その可愛いは……小動物に向けられる『可愛い』なのでは……
卑屈になり、ただでさえ引き攣っていた笑顔が、余計引き攣る。
「ミツル、こっち向いて」
タキシードを俺に合わせる為に、忍へ向いていた身体を自分へと向かせると、ロイは袖や胴回りを「ふん、ふん」と頷きながらいじりだした。
───本当に……着られるようになるんだろうか…………
恥ずかしいような申し訳無いような……何故だか少し落ち込みながら鏡越しに忍に視線を向けた。
───また…………
鏡を通して……さっきの冷ややかな瞳が俺を……と言うよりロイを見ている……。
そしてやっと俺と目が合ったと思ったら、微かに顔を紅潮させて忍は目を逸らした。
───え………………今の………なに…………
さっき残ったままだった違和感が、俺の中でまた育っていく。
結局その後いつも通りに戻った忍と、家に帰りつくまで…………目が合うことは無かった……。
最初のコメントを投稿しよう!