タキシードで花束を

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タキシードで花束を

忍の肌がいつもより熱くて、何度も俺に口付けては『愛してる』と囁く。 だから俺も、その度に『俺も愛してるよ』そう返した。 多分……本当にスゴくヤキモチを妬いていて…… 不安だったんだと、切なくなるくらい……伝わってきた…………。 「……忍…………もぅ……無理…………」 それにつけてもだッ!! 人には限界ってもんがあって、もう何時間も忍を受け入れている俺は…… 「────ヤッ…………ダ…メッ……てぇ……」 何度もイカされ………… 身体中……忍の付けたキスマークだらけだった………… 「…光流………」 それでも耳元で名前を呼ばれ口を塞がれる。 「……ん…………ッ……」 忍は時々タガが外れると言うか…… おかしくなる…………。 「──おまっ……いい加減にしろ……って……」 「……だって…………さっき光流…いいって言ったんじゃん……」 「───それはっ……あッ…………ャ…………」 俺の抗議も虚しく…… また1番感じるところを容赦なく攻められ、声をあげてしまう俺を忍が嬉しそうに見つめている。 「……光流………イッていいよ……?」 「───バッッ……もぅ出ねぇっつうの!……あ゛ッンん!…………ヤ…………ッ…………」 「…………おれは……イキそぅ…………」 「──おまぇ……どんだけ溜め込んでんだよッ!」 ───こんだけ……しょっちゅうやってんのに…… 「──生成しすぎだろッッ!」 「───光流…………」 抱きしめる力が強くなって…… 俺の中で忍がピクピクと波打つのが分かる…… けど……それが治まると……痛いくらい抱きしめる力がまた強くなる…… 「……大好き……」 耳元で少し切なそうに囁く忍が愛しくて…… すげぇ可愛くて………… 「俺も…………大好きだよ……」 抱きしめて……そう返す。 「……愛してる…………」 「ん……俺も愛してる」 まぁ……これはこれで……やっぱり…………すげぇ幸せだ…… 「……光流…………?」 「…ん?」 「……おれ…………まだしたい……」 「────はぁ!?……ふざけッ…………ンーッ!……」 と…………思う…………。 ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ 不意にブーケを持つ俺の腕にさっきまで感じられていなかった熱が伝わった。 少し身体をずらし、忍がわざわざ俺に触れたのだ。 多分……俺の身体が震えているのに気付き、安心させてくれようとしていると解った……。 讃美歌を歌ってくれたロイの、身体の奥を揺らす様な美しい声も…… リハーサルではあんなに俺を落ち着かせてくれた、聖書を読むバートの穏やかな声も…… 耳にすら入ってこない…………。 ──緊張するなッ………だ…大丈夫だ……──落ち着け俺──!!!…… しかしそう思えば思うほど……手が震え、それが分かってまた震える…………。 きっと…………それが分かって…… バートに視線を向けたまま、忍は俺に触れてくれたんだ。 「シノブ、あなたはミツルと結婚し、パートナーとしようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだとし、常にミツルを愛し、敬い、慰め、助け、慈しみ、変わることなくその健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつまで命の灯の続く限り、ミツルを守ることを約束しますか?」 バートが忍を見つめ、今までと少し違うその声がやっとハッキリと俺の耳にも届いた。 「──はい。誓います」 ──────あ…………………… 心臓が……別の生き物みたいに俺の意思に反して、嘘みたいに激しくなって── 胸が苦しくて……喉の奥が痛いほど熱い……。 そして───バートの瞳が俺を見つめた。 「ミツル、あなたはシノブと結婚し、パートナーとしようとしています。あなたは、この結婚を神の導きによるものだとし、常にシノブを愛し、敬い、慰め、助け、慈しみ、変わることなくその健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつまで命の灯の続く限り、シノブを守ることを約束しますか?」 手がバカみたいに震えて…… 喉の奥に全てが詰まっているように苦しくなった。 すると俺の背中を暖かい腕が優しく支えた。 思わず忍を見つめる。 温かい……大好きな笑顔が俺に向けられていて…… 「─────はい。──誓います」 忍を見つめたまま、俺は誓い……それに忍は嬉しそうに笑った。 バートが差し出してくれた、2人で買った安物の指輪をお互いの薬指に通し、もちろん……その時も俺の手は可笑しくなるくらい震えてて 「では──誓のキスを……」 俺の肩に置かれた忍の手が温かくて…… スゴく安心出来て………… 「……先輩……?」 忍の小さな声が耳に届いた。 「……一緒に幸せになりましょうね……」 きっと……バートの耳にも届いていて…… 優しく笑っている。 そして、小さく頷いた俺に温かい唇が触れた。 「ここに、2人の結婚が成立したことを宣言致します」 バートの清々しいほど、ハッキリした声が小さな教会に響いた。 「2人ともスゴくカッコよかったわぁ……!もう……感動しちゃった……」 たったひとりの参列者である、忍のばぁちゃんが赤く潤んでいる目頭をまだハンカチで押さえている。 「……ありがとう」 忍が照れたように笑い、そして俺を見つめる……。 「……今までたくさんの結婚式に行かせてもらったけど…………こんなに感動的な結婚式は初めてよ……?」 そう言ってまたポロっと涙を流した。 「光流さん……お疲れ様……本当にありがとう」 「───そんなッ…………」 返事をしようとして俺は、言葉を詰まらせ……ズズっと鼻をすすった……。 忍のばぁちゃんより遥かに赤く腫れた……泣き腫らした目で………… 誓いの言葉から、ずっと涙が止まらなくなった俺は………… バートが宣言を述べて、本来なら2人で退場するはずのところを、ずっと忍に抱きしめられて泣いていた……。 鼻水は垂れるは…… ロイはクスクス笑ってるわ………… なかなか……みんなの中で……思い出深い結婚式になったのではないだろうか………… そう俺は自分を慰めることにした。 そして……式から半年ほど経った朝 忍のばぁちゃんは天国へ旅立った。 とても穏やかな……笑顔にもみえる最期だったと忍から聞かされた。 結婚式を挙げたところで、お互い苗字が変わる訳でも、何か変わった訳でもない。 相変わらず大学へ行き、時々2人で出掛ける……。 冗談を言い合い、これも相変わらず……忍のタガが時々外れ………… ただ……小さなテレビの横に、忍と2人で撮ったタキシード姿の写真と、ばぁちゃんも加え3人で撮った写真が飾られている。 それと結婚式の後、バートとロイとは友人として時々食事をしたりするようになった。 そして俺は就職活動で、そこそこ忙しい毎日を送り、外食があまり好きじゃない忍は料理の腕をメキメキ上げている。 幸せなんて、目に見える訳でも、形がある訳でもない。 だから不確かで…… でもだからこそ、誰がなんと言っても 自分たちが“幸せ”だと思えば幸せなんだ。 そして俺は───間違いなく………… ───世界一幸せだ───。                         end
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