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Act01. ダーリンは芸能人☆ R
「いらっしゃいませ蒔田さま」
恭しく店員が出迎える、ルイ・〇ィトン、F川店。――あたしみたいな庶民にとって本来、縁のなかった場所のはず、なのに。
このひとと一緒にいるだけで世界は変わる。目まぐるしく。
「原田さんいつもありがとうございます」物おじせず応じる、かつ、相手の名前を憶えているこのひとも流石だな、なんてあたしは思う。聞けば仕事で関わるスタッフ全員の顔と名前を憶えているのだという。「今日は妻に、なにか……バッグを、と思いまして。春なので」
「素敵ですね。……いい新作が入っております。是非、こちらへ」
きらびやかで瀟洒な店内が広がる……見れば、あっちこちに両サイドの壁に、新作のバッグが飾られていてああ……あれもこれも。ロゴの入ったピンクのバッグも、白のショルダーバッグも、美しい。パリの美術館に迷い込んだ気持ちになる。こういう場所は、背筋がしゃんとする。だらしない格好でいられないな、って思う。
店員さんはにこやかに、奥へと案内してくれる。ちらりと店内を見回す。……限られた人間だけに許されたスペース。例えば、バーゲンセールをしているリーズナブルなお店、とは訳が違う……入っただけで空気が違う……セレブにだけに許された空気……それを、あたしは、味わっているのだ。
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