八話

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八話

「どうでも、いい……?」 「そんな事より、お願いがあるんです!」 「そんな、事……」  人生の中でこんな風に言われる日が来るなど想像した事などなかった。兎に角女性等からモテてモテてモテまくっていたレンブラントとのデート“なんかどうでもいい”しかも“そんな事”とは……衝撃的だった。  ダラシなく口が半開きになるのを自分でも感じるが、そんな事を気にする余裕がなくなるくらい正直動揺していた。 「あははは‼︎ レンブラント、お前フラれてるじゃん!」 「プッ、あぁ、失敬」 「長い付き合いだが、君が女性にフラれる所は初めて見たな」  余程面白いのだろう、ヘンリックなどテーブルをバンバンと叩きながら鬱陶しいくらいに笑っている。テオフィルも口元を押さえたままで身体を震わせており、クラウディウスは興味深そうに彼女を眺めていた。 「も、申し訳ありません! つい本音が……ではなく! 失礼な態度を取ってしまいました」 「いや、良いよ……全然、全く気にしていないから、アハハ……」  レンブラントは懸命に取り繕うとするが、乾いた笑いしかでない。 「あーそれで、僕にお願いがあるんだったね? 一体何かな?」  生気が抜けたまま、彼女に笑顔を向ける。実質初対面であるレンブラントにお願いとは一体何なのか見当もつかない。 「……」  先程までの勢いはなくなり、少し躊躇う彼女に苦笑した。ここにきて何故か遠慮する彼女に疑問を覚えながらも黙って待つ事にする。 「ダーヴィット・ロートレック様にお会いしたいんです」  予想もしていなかった名前にレンブラントは目を見張る。ダーヴィット・ロートレック……レンブラントの祖父の名だ。  まさか、自分を追い回していた目的はレンブラントではなく祖父だったという事か……。ただ何故、こんな少女が祖父に会いたがるのか、全く理解が出来ない。 「お取り次ぎ、頂けませんか?」  真意を探ろうと彼女の表情を観察するが、真っ直ぐにレンブラントを見る姿に、とても冗談を言っている様には見えなかった。 「ダーヴィットって、レンブラントの祖父だろう」  困惑するレンブラントの代わりにクラウディウスが答えた声に、少し落ち着きを取り戻す。 「……僕の祖父に、何の用?」  彼女の目的は分からないが、もしかした良からぬ事を考えている可能性もある。レンブラントは鋭い視線を向けた。 「お話したい事があるんです」 「祖父と面識は?」 「ありません……」 「なら要件は?」 「……」  そこまで問いただすと、彼女は俯き視線を落とした。その様子に大きなため息を吐く。何かやましい事でもあるのだろうと、レンブラントは判断する。 「悪いけど、君を祖父に会わせる事は出来ない」 「っ⁉︎ そんなっ……」  彼女は弾かれた様に顔を上げた。 「君の目的が何かは知らないけど、君と僕は今日が初対面だ。正直、僕は君を全く信用出来ない。そんな人間に、大切な家族である祖父を会わせられない」 「……」 「もしかしたら、君が誰かから頼まれて祖父の命を狙っているかも知れない。または祖父に色目を使いロートレック家を乗っ取ろうと考えている可能性だってある」  あくまで可能性の話で、レンブラントだって正直彼女がそんな事を企んでいる様には思えないが、人間なんて分からない。 「レンブラント、流石にそれは言い過ぎですよ」 「そうだぞ、レンブラント。大人気ないぞ」  非難されるが、レンブラントは聞こえないフリをして取り合わない。幾ら友人だろうと、これはロートレック家と彼女との問題だ。 「レンブラント様」 「これ以上何を言っても無駄だよ、僕の気持ちは変わらない」 「取り次いで頂けないのは理解しました。ご無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした。ですが一つだけ……ダーヴィット様に言伝だけでも、お願い出来ませんか」  縋る様な視線を向けてくる彼女に、流石にそれくらいなら良いかという気持ちになり、頷いて見せた。すると安堵した様に彼女は小さく息を吐く。 「ロミルダ・フレミーが貴方に会いたがっています、そうお伝え下さい」  彼女はそれだけ言うと、丁寧にお辞儀をして踵を返し去って行った。
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