前章

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昔の恩だったか、 このお隣さんに向く狐たちの敬意は並じゃない。 横宮さんの周辺なら、 そう無茶に動かないのではと思う。 神頼みするほど思い詰めてはいない。 それでも何か、この停滞を破る動作がほしかった。 願うだけだ。声に出すわけじゃない。 目を閉じて頭を下げながら、胸の内に念じた。 ──横宮さんと、ちゃんと話ができますように、 と。   ☆ 「うわぁやきそば!  りーちゃん、あれりーちゃんどこ?」 着々と流れる参拝行列を横目に、 こちらは混沌真っ只中。 「何回も呼ぶな、りんご飴のとこ! 栗子は?」 「ここ!  でも美沙ちゃんが玉こんにゃくに行っちゃった!」 「はあ? あーもう、じゃあ栗子、 日比谷ちゃんに鳥居の前集合って伝えて!  あと、りんご飴いる?」 「うーん、今はいいや…鳥居ね、わかった!」 色とりどりの屋台は、 何でもありそうな縁日の光景。 熱い湯気や香りに目移りして、 私たちはすっかりばらけてしまっていた。 携帯を出す余裕もなく、 はぐれる前の英断を抱えて人波をくぐり抜ける。 「おっ、栗! こんにゃく克服したの?  一個いる?」 「いっ、いらない…… 美沙ちゃん、買ったら鳥居の前に集合だって!  横宮さんは?」 「あっちに焼鳥屋あった!」 うわあ、姿が見えないと思ったら。
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