前章

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「そっか。じゃ、あとは栗に任せるね」 「…え?」 何やらすっきりした顔と、 そこまでいかずとも呆れた顔と眼が合った。 「……いいの?」 「うん。 何かあって、それで心当たりがあるんでしょ?  あてがあるなら、いいよ?」 気になるのはそこだけだったらしい。 こちらの躊躇を逆に不思議がられるから、 つい、もう一人に視線を移す。 気まずげに瞳を揺らす顔は、 いかにももの問いたげだけれど。  「…とっとと見つけてきてよ。 まあ向こうは大人だし、 見つからなくても問題ないけど」 「またー。あたしは一緒に帰りたいよ!」 やっぱり何も訊かない姿勢が、 すかさずごねた子をぺちんと抑える。 興味なさげな様子は一見これまで通りで、 それでいて、声音に明らかな違いがあった。 二人の気持ちに甘えるみたいで、 どこか気は引ける。 「……わかった。じゃあ、急いで見つけてくる!」 それでも笑顔で頷いて、私はあえて訊かずにいてくれる友達の元から駆けだした。 * 人いきれが近いようで遠い。 木々の向こうの喧騒を聞きながら、 駆け抜ける道は静かだった。
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