後章

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後章

「…だから、ごめんってば」 「知るか。わたしは助けないぞ、 あの人が来たらひとりで何とかしな」 「何よ、逃げちゃって。 心配しなくてもすぐ起きるし、害だってない…… あ、ほら起きてる」 閉じた覚えのないまぶたを開けると、 薄曇りの森だった。 背中には太い幹の感触で、お尻には枯れ草と土で、 ぼぅっとした視界の中央には、 見慣れた方と初めての方がひとりずつ。 私が見ていることに気づくと、 初めての人影が先に近づいてくる。 聞こえた声は女性のもの。 全身を淡い緑のケープで覆い、 目深なフードで顔を隠していた。 曇天に霞んだ森が、 すらりとした立ち姿を揺らめかせる。 まるで、少し恐い絵本のような。 だから、ごく自然に口が動いた。 「……魔女の、おばあさん?」 間髪入れず、私の鼻がむにゅっと潰れた。 「だぁれがおばあさん?  見なさいっ、この美貌を」 細い人差し指を突き出したまま、 あっさりとフードがはぎとられる。 一回、息が止まった。 なるほど若い顔立ちと、 胸元までこぼれ落ちる焦げ茶の髪。 お化粧も緩く波打つ髪も華やかなのに、 どこか神秘的な落ち着きもある。 呆気にとられるほど綺麗な顔だった。 けれど息が止まった理由はそこではなくて、 再開させた呼吸とともに私はその一語を口走る。 「……写真のひと…?」
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