11人が本棚に入れています
本棚に追加
この2ヶ月間、汐美さんの話を持ちだす度、
一緒に思い出していた一葉。
今はお隣さんが持つ懐中時計を携えた男性と、
その家族だろう母子を写した穏やかな写真。
あの日入りこんだ館の主人であるらしい一家のお母さんと、目の前の顔がそっくりだった。
同じじゃない。そっくりだ。
呆然と二の句が継げない私の鼻から人差し指が外れる。
それを自身の顎に添えて、女性が呟いた。
「ふーん……そこまで知ってるんだ」
屈めていた腰が伸ばされて、
「帰ろ」
「待てい! さっきのを嬢ちゃんに説明してやれ、あと謝罪!」
優雅に翻ったケープの裾を、狐さんがわし掴んだ。
綺麗な顔に子どもみたいな不満が宿る。
「おじさんが説明してよ。というか、必要?
この子もういろいろ知ってるんでしょ。
謝罪だって原因作ったのおじさんじゃない」
「や、売り物を勝手に使われたわたしへの謝罪」
あ、そっちなんだ……。
「あと、この嬢ちゃんが何を知ってるって?
何も知らんでしょ、来るもの拒まずでよくわかんないまま乗りきってるだけだって」
うわあ、腹立たしい。
さすがに聞いていられなくなる。
「いいじゃないですか、それでも!
知らないからってとり残されたくないんです!」
「ほらやっぱ知らない」
ああっ、しまった。
最初のコメントを投稿しよう!