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こんなことになったきっかけは明らかで、
だから湯呑みを置いた私は小さく深呼吸をする。
せっかく決意を固めて来たのに、
年始の挨拶だけで帰るわけにはいかないのだ。
対面に座るお隣さんへ改めて眼を向ける。
「横宮さん。…お正月から去年の話になりますけど、私やっぱり……」
言いだした言葉が、今度は甲高い音に遮られた。
一瞬声をなくした後、
二人して視線が窓に吸い寄せられる。
──この家では滅多に聞かない、
門柱のチャイムの音だ。
はたして、冬木立の庭の向こう、
門の前に人影があった。
身長差のある二人組。
うち一人が着るコートのピンク色が、
遠目にも実に明るくて。
「……嘘っ?」
それだから、私の身体がこたつの中でびくついた。
飲みかけの緑茶が危うく揺れる。
振り向いた横宮さんが「大丈夫?」と言った時には、私はもう膝をさすりつつ立ちあがっていた。
「だ、大丈夫ですごめんなさい、あとあの、
お客さん私が出ます!」
「え、いや僕が…」
追いかける声を残して廊下に飛びだす。
うわあ、こたつの後だとすべてが冷たい。
コートを置いてきたことをちょっと悔いながら、
靴をつっかけて引き戸を開けた。
普段ならば、
来客の応対に出しゃばることなんてもちろんない。
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