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ここまで慌ててしまったのは、 「おっ、栗!  ほらねりーちゃん、やっぱこっちにいた!」 「りーちゃん呼ぶな。ていうか、 あんたも元日から入り浸ってるとは……」 身長差と遠目のピンクで、 来客がこの二人だと知れたためだ。  門まで駆けながら、思わず戸惑った眼を向ける。 普段は学校で会うこの二人と、 まさかこの場所で向き合うとは。 一人は怪しさ満点の噂話を警戒していたし、 もう一人は会いたいと言ってはいたものの、 実行する素振りはなかった。 「入り浸ってないよ! 二人こそどうして… あっ、うちの玄関もうひとつ隣で」 「知ってるわ!  今朝日比谷ちゃんがわたしたちに送ったメール、 見てないでしょ。 どうせ家だから訪ねちゃおうってこの子が。 あと、あけましておめでとう」 「あ、ごめん本当に見てない……えっと、あけま」 「今年もよろしくっ、ねぇ栗、横宮さんは?  家にいるでしょ、だから栗もいるんでしょ!」 「こらっ、どうせ家だろうってそっちのこと?」 「だって念願の横宮さんちだよ、 うはぁほんとに森みたい!  二人ともいいなあ、近くに住めるなんて!」 「わたしそんなに近くないから」 はしゃぐ美沙ちゃんのピンクのコートをひっ掴んで、凛とした声は冷たいお言葉。 なんともぶれない態度だけれど、 もう私に離れろと言わないし、こうして来てくれたし、徐々にほどけている気もした。 もう一度本人と話す機会でもあれば、ただの変わったご近所さんとして受け入れてくれるかもしれない。 もっとも、今日をその機会にするのは、 できれば……、 「栗ちゃん、コート忘れてるよ?」 「あっ」
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