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しまった。 いや、門で話していればこうなるだろうけど。 眼前の一人の顔が輝くのを認めながら、 私は苦笑いで振り返る。  「ありがとうございます……」 「わーっ、横宮さんお久しぶりです!  去年の文化祭以来ですよね、お元気でしたぁ?」 「一昨年ね、日比谷ちゃん。年始の挨拶くらいちゃんとして……あぁわたしもか」 「あけましておめでとうございまーすっ!」 今年一番景気のいい美沙ちゃんの声とお辞儀につられて、門を挟む四人が頭を下げる何ともいえない時間が少し。 挨拶がひとまず片づいたら、 私には白いコートが手渡されたりする。 「すみません……でも、なんで忘れてるなんて?」 「お友達とこれから出かけるんじゃないの?」 「えっ、出かけませんよ!」 「えっ、出かけないの?」 とっさに出た私の返事に応えたのは友達二人で。 驚く様子に今し方の話を思い出し、 慌ててコートのポケットを探る。 新着メールを開けば、 今度は私が目をまるくする番だった。 初詣のお誘いだ。……に、続いて。 すぐそばでにこにこ笑う送り主に眼を戻す。 隣には実に対照的な仏頂面。 ──そこは無視していいとでも言いたげな。 たとえば去年のお正月なら、 仏頂面に同調していたかもしれない。 でも私は、携帯を握ってお隣さんへ顔を上げた。
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